すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

金色の獣、彼方に向かう  (ねこ3.8匹)

イメージ 1

 

鎌倉の山中に庵を結ぶ僧に、謎めいた旅の男が語り聞かせる驚くべき来歴―数奇な運命により、日本人でありながら蒙古軍の間諜として博多に潜入した仁風。本隊の撤退により仲間とともに取り残されるが、やがて追われる身となった一行を、邪神「窮奇」に仕える巫女・鈴華が思いのままに操りはじめる。(第一話「異神千夜」)元寇に際して渡来した一匹の獣。姿形を変え、時に悠然とたたずみ、時に妖しく跳梁する。古より潜むものたちの咆哮を、瞠目の幻視力で紡ぐ、傑作ダークファンタジー四篇。(裏表紙引用)

 


読んだのか読んでいないのかわからないまま放置していたら文庫が出て、やっぱり読んでいなかった。四篇収録の短編集で、どれも恒川さんらしい、ちょっとほの悲しく少しだけゾっとする、雰囲気ある内容となっている。

 

「異神千夜」
日本人であることを隠して蒙古軍の兵として生きていくことになった男の運命を描いたお話。巫女の存在の大きさと、そばに寄せる鼬が不気味。ストーリーとしては、苦労して戦国を知力で乗り切るかに見えたが1人の女に翻弄されるというそれほど目新しくはないものだったが、オチのつけ方が終わっていない感があっていい。

 

「風天孔参り」
三日山の安宿を経営する男。ある日、若い女性が1人で長期の宿泊にやって来たが。。。シカ肉のシチューパイがとにかくおいしそうだなと^^;少し現代的な舞台だが風天孔参りという変わった風習?が独特の世界観を作り出している。しかし、この男には好感持てなかったな。50代でナニやってんだってなもんで。

 

「森の神、夢に還る」
稲光山のふもとに棲む「わたし」は、動物に憑依することができる。「わたし」が女給のナツコに憑依したわけとは――。ナツコと親友ユリの関係を描いたところが一番好きだったな。女の裏の顔というのか、ハッキリこうです!と描かないところもいい。

 

「金色の獣、彼方に向かう」
少年が見つけた獣は、今まで見たことのない姿をし、およそ動物らしくなかった。少年は獣をルークと名付けて飼うことにしたが――。少年と少女の関係がヒリヒリしていて良かった。少女の痛々しい環境や少女が犯してしまった罪など、本当はどうなのかわからないところが恒川作品の長所かもしれない。


以上。ホラーすれすれの幻想的な世界観がやはり素晴らしい。あまりデビュー作から変化はないようにも思えるが、作者本人は作風を広げていきたいのだとか。特徴を出しながら、一つとして同じお話はないのが魅力だ。