すべてが猫になる

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PK  (ねこ3.7匹)

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彼は信じている。時を超えて、勇気は伝染する、と――人は時折、勇気を試される。落下する子供を、間一髪で抱きとめた男。その姿に鼓舞された少年は、年月を経て、今度は自分が試される場面に立つ。勇気と臆病が連鎖し、絡み合って歴史は作られ、小さな決断がドミノを倒すきっかけをつくる。三つの物語を繋ぐものは何か。読み解いた先に、ある世界が浮かび上がる。(裏表紙引用)

 

 

三部に分かれたSF長編。PKは、サッカーのペナルティキックとSFのサイコキネシスの両方の意味があるのだとか。本書は2001年W杯フランス大会アジア最終予選のまさにPK戦の最中の章と、57歳の大臣が何者かから何らかの嘘をつくことを指示されている(この大臣は昔、ベランダから落下する赤ちゃんを救った過去がある)章、超能力を持つ営業の青年に家を訪ねられる章などなど、込み入った内容。超能力を持った人間は作中に二人登場しており、その時代設定もバラバラ。テーマは、まさにバタフライエフェクト。ある人の小さな行動が後々大きな災厄を引き起こすという。それを防ぐために翻弄されている人々の物語だろうか。

 

伊坂作品らしく、印象に残るセリフやその効果的な使い方も健在。だが、タイムパラドックスの論理の説明がくどいし私の苦手な昆虫Gが頻繁に登場するため、読み心地はいつもほど良くない。伊坂幸太郎ってこんなんだっけ、久々に読むから自分の感性が変わったのか?と悶々としていたが、どうやら異色作の部類らしい。ほ。本書は3.11の大震災の前に描かれたものだそうだが、発表時期がそれと被っており、どうしても読者として現実とのリンクが気になるのは仕方がないことのようだ。正直この私も少しゾっとした。