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パニック・パーティ/Panic Party (ねこ3.9匹)

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クルーザーの故障から無人島に取り残されたのは、ロジャー・シェリンガム含む15人の男女。しかしどこか仕組まれたようであった。あんのじょう、クルーザーのオーナー、「素敵な船旅」のホスト役が全員を集めて言った。 「この中に、殺人者がいる」 そこへある人物の死が重なり、ひとびとは次第に疑心暗鬼におちいっていく。警察も来ないこの閉鎖情況で、シェリンガムはいかなる裁断を下すのか。 人気シリーズ最後の長編!(紹介文引用)

 


ロジャー・シェリンガムシリーズ、10作目にして堂々の完結編である本書は、そのあまりの「探偵小説のルール」からの逸脱ぶりに評価が真っ二つに割れることになったそうだ。それもそのはず、本書のロジャーは推理をしていないどころか、探偵業そのものを放棄している。いつも突拍子もない「アンチ本格」ものを得意とするアントニイ・バークリーを読み慣れていれば、これぐらい大人しいぐらいじゃないかと思うが。

 

クルーザーのオーナーであるピションが開催した、男女15名による船旅。行き先は知らされず、お互いの身分も違い、お互い顔見知りさえ少ない中、船は出発する。しかし、ピションが告白した「この中に殺人者がいることを私は知っている」の言葉で船内は大混乱に。そしてたどり着いた島に取り残された15名だが、ある日ピションが崖のしたで死んでいるのが発見される――というお話。設定、状況、キャラクター、すべて本格ミステリとしては百点満点で、バークリーが得意とする人間関係の機微や細かい性格の書き分けも見事である。死者が出てからの人々の混乱、変貌ぶりはギャグかと思うほどに派手で、まさしく「パニック」という言葉にぴったりだ。最後の最後まで気を抜けない容疑者同士の攻防に目が離せない。

 

確かに、酷評もあって然りだと思うが、バークリーはいつでも挑戦する作家だからなあ、異色作ってことで良いのでは。ロジャーってこんなイヤな奴だっけ?と思うぐらいには迷走している気はするが。ドタバタ劇としては充分楽しめた。