すべてが猫になる

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流れよわが涙、と警官は言った/Flow My Tears,The Policeman Said (ねこ3.7匹)

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フィリップ・K・ディック著。友枝康子訳。ハヤカワ文庫。

 

三千万の視聴者から愛されるマルチタレントのタヴァナーは、ある朝見知らぬ安ホテルで目覚めた。やがて恐るべき事実が判明した。身分証明書もなくなり、世界の誰も自分のことを覚えてはいない。そればかりか、国家のデータバンクからも彼に関する記録が消失していたのだ!”存在しない男”となったタヴァナーは、警察から追われながら悪夢の突破口を必死に探し求める……現実の裏に潜む不条理を描く鬼才最大の問題作!

 


ディック三冊目。今まで読んだ中で一番ハリウッド映画的というか、しかもトム・クルーズとかウィル・スミスあたりが出てそうな軽い雰囲気に驚いた。もっとタイトルイメージ的にハードボイルドな世界を想像していたのだが。このタイトルは詩からの引用なのかな?邦題がおもっきり直訳な感じがするが。

 

ストーリーは、ある有名タレントの男があることをきっかけに、自分のことを誰も全く知らないばかりか、国家の記録からも消えてしまっている世界に飛び込んでしまったというもの。色々とツテを使い身分詐称をしたり女性を口説いたりしながら逃げ回るのだが、タヴァナー視点ではまあそれだけ。バックマンという警官の別視点も交互に進行するのだが、ひょっとしてタイトル的に主人公はこっち?展開としては、警官たちがタヴァナーの正体を探り追いかけ、タヴァナーはだんだん自分の存在が認識されていくのを自覚していくあたりが面白いかな。しかし、この作品の肝はそういうところではないのだなとラストでわかる。存在の証明っていうのは、他者の認識あってこそだってこと??個人的意見だけど、物語の設定の説明が不親切だったし、(スウィックスの意味が最後までわからなかった)謎が解ける過程がどうも唐突というか。。タヴァナーとバックマンとの繋がりが密接にはないので結局タヴァナーがこういう事態になってどう感じたのかとかこれからどう生きていきたいのかとか、そういうところを読みたかったな~と思う。多分、正直、よくわからなかったんだろうな、自分。読み物としては面白いが、心の部分ではなかなか主人公どちらにも入りづらい作品だった。