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春から夏、やがて冬  (ねこ3.7匹)

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歌野晶午著。文春文庫。

 

 スーパーの保安責任者・平田は万引き犯の末永ますみを捕まえた。いつもは容赦なく警察に突き出すのだが、ますみの免許証を見て気が変わった。昭和60年生まれ。それは平田にとって特別な意味があった―。偶然の出会いは神の導きか、悪魔の罠か?動き始めた運命の歯車が2人を究極の結末へと導く! (裏表紙引用)

 

 

「葉桜の季節に~」と比肩して凄いみたいな惹句があるようだが、そこまでではない。だが、読み物としてはとても面白かった、さすが歌野さん。

 

スーパーの保安責任者・平田には重く辛い過去があった。高校生の娘が轢き逃げされ死亡し、さらには悲嘆した妻にもこの世を去られてしまったのだ。そんな過去を職場では隠しながら、エリートコースを外れながらも粛々と仕事をしていた。そんな平田がいつものように捕まえた万引き犯の女(ますみ)が、生きていれば娘と同い年だという感傷だけで見逃してしまう。それ以来、ますみは感謝の気持ちから平田のところへ何度も接触してくるようになったが――、というお話。

 

平田の過去はとても悲惨でやり切れなく、ますみの現状はDV男に寄生されている。どちらも境遇は違いながらも共感しあえるところがあったのだろうか。ますみはお世辞にも美人とは言い難く、清潔感も何もないが、とても素直だ。どうしようもないところもあるが、平田は徐々にますみにある感情を抱くようになる。こういう気持ちはとても同じ経験をしないと理解し得ないが、尊重はできる。しかし互いにいい方向へ向かっていないのは間違いなく、物語は終始暗いままだ。終盤、平田がある秘密を持っているところから、一条の光が差したかのように見える。が、しかし、ここは歌野さん。二度にわたるどんでん返しが作品をさらに重く悲しいものにしてしまった。驚きはあったものの、ミステリーとしては佳作どまりといったところ。もう一つ何かあるかなと期待してしまった、だって歌野さんだもの~。そういうわけで少し物足りないのだが、読みやすくシンプルで決して悪い作品ではない。