すべてが猫になる

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空中庭園  (ねこ3匹)

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角田光代著。文春文庫。

 

郊外のダンチで暮らす京橋家のモットーは「何ごともつつみかくさず」。でも、本当はみんなが秘密を持っており、それぞれが違う方向へ。異質でありながらも家族であるしかない、普通の家族に見える一家の光と影……ひとりひとりが閉ざす透明なドアから見える風景を描いた連作家族小説。第3回婦人公論文芸賞受賞。(裏表紙引用)

 


角田さん二冊目。ある家族6人の視点で順番に語られる構成で、連作短編集の形式となっている小説。それはどこにでもある普通の家族の物語。特別大きな事は起こらないが、「秘密を持たない」がルールの部屋の蛍光灯の下、それぞれがそれぞれの秘密を、歪んだ毎日を陰では送っているのだ。それが読者である我々第三者にだけがわかる仕組みで、裏であんなことやこんなことが起こっているのに、家の中では何も起こっていない、というのがこの作品の肝要。人間って、個人になるとこんなに違うのに、団体という家族の中に入るとまるで顔が違っていて、でも確かに裏の自分のほうが真実で。とにかく、秘密を持たないなんて理想を掲げるからこそ嘘が引き立つのだ。この小説のそこのところの技術は非常に巧みだと思う。

 

が、趣味には合わなかった。文章は好きだし前読んだ作品は好きだったので、あくまで作品との相性なのだが、こういう作品は、その描かれた時代に読むべきだった。もちろん名作ゆえの普遍的な素晴らしさはあると信じているが、このドロドロさや腹黒さは、今やどの家庭でも普通ではなかろうか?ゆえにこんな家族がいるのか!という衝撃には全く至らないのは残念だった。それが一つ。そして、登場人物全員好きじゃなかった。不倫バカ夫、援交もどき娘、中二病息子、理想家の母、我儘祖母、ヒステリックな不倫女その1と刹那主義の不倫女その2。私が普段読むような小説ならば、こういう問題のある人々には必ず天誅が下ったり何らかの解決がみられるのだが、純文学ゆえ(?)ただそのまま流れていく、っていうのがどうも自分向きではなかった模様。次行こう、次。