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かけら  (ねこ3.8匹)

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青山七恵著。新潮社。

 

父は、昔からちゃんと知っていたようにも、まったくの見知らぬ人であるようにも感じられた。第35回川端康成文学賞受賞。最年少で受賞した表題作を含む珠玉の短篇集。(紹介文引用)

 

初めて読む作家さん。著者紹介に筑波大学図書館情報専門学群卒とあるが、そんな学科があるのねえ。本書はデビュー作で、3編の短編が収録されているので一つずつ。

 

「かけら」

 

20歳の少女・桐子が、ひょんなことから父親と二人だけでさくらんぼ狩りツアーに出掛けることになったというお話。父親とは変な距離感があり、気が進まない桐子だが。。
この年頃の女性ならほとんどが父親とはこんな感じなのではないかな、というごく普通の父娘像。頼りないと思っていた父の、喧嘩をしているところや人に親切にしているところを直視し、むずがゆい思いをしている桐子。要は、父を1人の人間として見始めるようになった=桐子の心の成長を描いたものだと思う。なんてことないお話だが、座る時に人1人分の距離をあけて座ったり、人助けをしたことの話を自らしなかったり、些細なところで父の人間性を表現出来ているのが上手だなあと思った。

 

「欅の部屋」

 

結婚が決まった青年が、同じマンションに住む元カノのことに想いを馳せるお話。
未練があるわけでもなさそうだけど、似たようなタイプを選んでいたりするのね。これもまた、元カノを吹っ切ることによって青年が成長するお話だ。心を取り替えたカーテンなどで表すあたりが文学的で良いなあと思う。些細な日常を描いた普通のお話ではある。些細なことと言えば、主人公が観ている映画の結末を婚約者が言ってしまうシーンが描かれているのだけど。。それが原因で事件が!とか妄想してしまった自分に失笑。何も起こりませんでした。

 

「山猫」
ある新婚の奥さんが、西表島からやって来た親戚の高校生の女の子を数日預かることになったお話。
この主人公が一番自分に近かったせいか、このお話が一番自分に合っていたかな。地味で、礼儀はわきまえているけれど必要なこと以外何も話さない女の子への苛立ちみたいなものが淡々と描かれている。女同士って絶対一緒に生活しちゃダメな気がしてゾっとしたな。ほんとにこれもスリッパを履けとか高いところがダメなら先に言えよコラみたいな些細なことなんだけども。このお話に関してだけは、「だからなんだ」というぐらい何にもなっていない。


以上。

 

物語というより純文学的だなという印象。臓物がどうのという「ん?」というような比喩もあるが、黒目の中に自分がしまわれるようなとか、表情が風流の領域だというような、綺麗な表現もありなかなか力のある作家さんだなと。時々他のも読もうかなー。