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解錠師/The Lock Artist  (ねこ3.9匹)

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ティーヴ・ハミルトン著。ハヤカワ文庫。

このミステリーがすごい! 2013海外編
週刊文春海外ミステリーベストテン海外部門
第1位
八歳の時にある出来事から言葉を失ってしまったマイク。だが彼には才能があった。絵を描くこと、そしてどんな錠も開くことが出来る才能だ。孤独な彼は錠前を友に成長する。やがて高校生となったある日、ひょんなことからプロの金庫破りの弟子となり、芸術的腕前を持つ解錠師に……
非情な犯罪の世界に生きる少年の光と影を描き、MWA賞最優秀長篇賞、CWA賞スティール・ダガー賞など世界のミステリ賞を獲得した話題作。(裏表紙引用)



2013年このミス第1位、週刊文春海外ミステリーベストテン第1位作品ということで。本書をある理由で読もうと決めた後に知った情報。

約600ページの大長編、翻訳ものながら、驚くほどスイスイ読み進めた。去年までの自分なら、三日で読み終わったのではないかと。

この物語は、ある事情から言葉を話せなくなった孤独な少年が、解錠という才能ゆえに嵌まってしまった犯罪者という道の歩みと、そこに至るまでにあった出来事、原因が淡々とした語り口で綴られている。過去と現在が交互に行き交う二重構成で、なぜ今ここで金庫の前にいるのか、なぜ悪の仲間の車に乗せられているか、などが徐々に明かされている。混乱を呼ばないシンプルな作りで緊張感が途切れない。海外ものゆえか、マイクの不幸に慣れてしまった淡泊さを感じさせる人間性ゆえか、悲惨な内容ながらそれほど暗澹とした気持ちにはならなかった。それどころか、物語で唯一の希望、オアシスともいえるアメリアの存在、その関係性が漫画のやり取りという目新しさでみずみずしく描かれ、微笑ましいほどだ。一番気に入った絵での意思疎通のシーンがなければ、本当にマイクはただの不感症な人間に映ってしまったままだったろう。誰も安全じゃない、いつでも、どこにいても。と悟る彼には。

中盤以降は少々同じことの繰り返しで飽きるものの、ラストのアメリアとの絡み方は実に感動的。この先は自分の頭の中で描こうと思う。きっとマイクは立ち直ってアメリアのそばにいる。