すべてが猫になる

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黄昏という名の劇場  (ねこ3.8匹)

太田忠司著。講談社文庫。

夕暮れの薄闇が下りてくる黄昏の頃には、災いや魔物がこの世に現れるという。我がもの顔で町を荒らし回る残忍な悪党とその手下が出会った不思議な男(「雄牛の角亭の客」)。有名な探偵が乗った列車で起こる奇怪な密室殺人(「憂い顔の探偵」)。異界の扉を開き、迷い込んだ者たちが遭遇する、8つの妖しの物語。(裏表紙引用)



皆様新年明けましておめでとうございます。さてわたくし、ハウスクリーニング経営の兄貴にもらった強力業務用洗剤にて本格的な大掃除を「素手」で行ったところ、2日目にして5本の指の腹がズル剥けてしまいました。「20倍に薄めろってゆーたやろ!しかもプロでも素手でやる奴おらんわ!大体お前は…(以下説教3分続く)」とこっぴどく怒られしょげているゆきあや、キーボードを打つ指が大変痛いです。そんなわけでばんそうこまみれのお正月皆様いかがお過ごしですか。


さて今回ご紹介する読了作品、ゆきあやおなじみの太田忠司さん作。どうやら8年ほど前の作品のようで、シリーズものの陰に隠れてとんと目立っていない。私も正直期待しないまままあ105円ということで買ってみたのだがこれが面白いのなんの。

1編目「人形たちの航海」については個人的に苦手な時代風景だったため入り込めなかったものの、2編目「時計譚」に入ってからは読む手が止まらずサクサクと。この作品、一言で言えば「メタ」の連作短編集だったのですな。語り手は語り手として謎のまま存在しつつ、それぞれのお話で別の語り手が現れる。形式としても面白味がある上、ジャンルが私好みのホラーなのだから気に入らないはずはないわけで。

お話そのものはよくある世にも奇妙な物語だが、ここで私がお勧めしたいのは「赤い装丁の本」というお話。過去何千冊と本を読んで来た私でも、こういう設定のものは馴染みがないなあと感心したまさにメタの向こう側に行き着いたお話。なんと、語り手が「本」なのだ。なんだ、無生物の擬人化ならよくあるじゃないかと思うなーかーれー。主人公の本の名前は「悪の花」で、彼はバラバラになって行方がわからなくなった自分の本を探している。探している間も、別の本が自分の本を探しているところへ出くわす。それがなんともいえないダークファンタジーをかもし出しているそれだけでたまらないのに、彼らは「なぜ」本を探しているかまでは思い至っていなかったのが明と暗を分ける結果となったのだった。。
ね、面白そうでしょ?この作品を読んだだけでも「埋もれた佳作発見」と言っていいんじゃないかしら。

あまり本書の書評は見たことがないけれど、気が向いたぞ、という方はぜひどうぞー。