すべてが猫になる

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図書室の海  (ねこ3.9匹)

恩田陸著。新潮文庫

あたしは主人公にはなれない―。関根夏はそう思っていた。だが半年前の卒業式、夏はテニス部の先輩・志田から、秘密の使命を授かった。高校で代々語り継がれる“サヨコ”伝説に関わる使命を…。少女の一瞬のときめきを描く『六番目の小夜子』の番外篇(表題作)、『夜のピクニック』の前日譚「ピクニックの準備」など全10話。恩田ワールドの魅力を凝縮したあまりにも贅沢な短篇玉手箱。(裏表紙引用)


恩田さんの作品の記事は初めてのような気がする。。。

タイトルが素敵だなあと思って気になっていた本。連作ではない短編集なのだが、どうやら恩田作品でおなじみの長編や短篇、つまり<本編>の前日譚であったりスピンオフであったりするようだ。ここに挙げられている恩田作品、偶然にも一通り読んだことがあるのだが…あまりにも前過ぎてさっぱり覚えていない、すんません。が、しかしそれなりに楽しめたかな。恩田作品は理解が行き届かない作品(悪い意味ではない)も半分ほどあるため、「???」となった作品があったことも自分の記憶力の問題ではない、と無理やり終わらせてみる。

気に入った作品をご紹介。

「春よ、こい」
一発目にこの作品を持って来られたことで、この短編集への信頼度が増したと言ってもいい。不幸な事故で亡くなった少女とその母親、友人が登場する物語。何度も繰り返される同じ光景、同じセリフ。それが少しずつ「それが起こる前」へと変化していく。もともとの原因がその通りのことではなかったほうが面白味はあったかもしれないが、自分は十分気に入った。ただ、つい最近これと似たような小説を読んだような気がする……あ、小林泰三だ(笑)

「茶色の小壜」
ホラーだろうか。あるOLがロッカーに隠し持っている茶色の小壜、主人公はそれが気になって仕方がない。ある日こっそり彼女のロッカーを覗いてしまうのだが。。というお話。ハッキリした答えを提示しない短篇というのも私は嫌いではない。私の場合は裏を読むこともなく、普通に作者の用意した想像の結末へたどり着く場合が多いが。

「ある映画の記憶」
子供の頃に見た日本映画の結末と、主人公自身の過去の記憶との結びつきとは。。。原作も映画も実在するものらしい。最後まで読んでびっくり、これミステリーでしたのね。安っぽい仕上がりになっていないのは結末の「現実らしさ」が原因か。

「国境の南」
この短編集の傑作といえばこれかもしれない。個人的には大変気に入った作品で、読者にも人気が高いようだ。こちらも「茶色の小壜」を彷彿とさせる若い女性を扱ったホラー。よく出来たウエイトレスの裏の顔も相当スリリングだが、失踪したまま主人公の感傷やモノローグで終わるなら今までやってきたことと同じだ。ここにある結末は十分読者の意外性を買うだろう。そして落としどころにほくそ笑む作者の表情が見えるようだ。

「図書室の海」
何度も言うが、タイトルが好きだ。これが「図書館の海」だったら私の興味をそそったかどうか。それだけ。船内と錯覚する図書室って素敵そう。他の作品、人物にそれほど思い入れや記憶のない自分にとっては良質な雰囲気作品といったところ。



とりあえずこんなところで。
挙げなかった作品は、理解し損ねたものや題材が好みではなかったもの、あとは「ピクニックの準備」のように本編を忘れてしまっているので自己責任、というものなのであしからずー。