すべてが猫になる

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水の柩  (ねこ3.8匹)

 

老舗旅館の長男、中学校二年生の逸夫は、自分が“普通”で退屈なことを嘆いていた。同級生の敦子は両親が離婚、級友からいじめを受け、誰より“普通”を欲していた。文化祭をきっかけに、二人は言葉を交わすようになる。「タイムカプセルの手紙、いっしょに取り替えない?」敦子の頼みが、逸夫の世界を急に色付け始める。だが、少女には秘めた決意があった。逸夫の家族が抱える、湖に沈んだ秘密とは。大切な人たちの中で、少年には何ができるのか。絶望と希望を照らす作家・道尾秀介がおくる、心に染みる人間ドラマ!


ミッチー新刊。やっと追いついたわぁ(;^^A。

 

なんとなく文学的になってしまったここ最近のミッチー。元々は好きな作家ではなかったし、中期の「カラスの親指」「龍神の雨」「花と流れ星」「鬼の跫音」が好きだった・・・だけなのかな^^;、と思うようになってしまった。一時期は1、2番に好きな作家だったのに。もう前みたいにがっついて買わなくなったもんな。


と言いながら、本書はなかなかの出来栄え。主人公の少年が「普通」である自分に不満を抱いている、という前情報を得ていたので、結構イラっとさせられるボウヤかと想像していたら(オレはこんな普通でいるべき人間じゃない!みたいな)。。。ごめん逸夫、君は普通だ^^;イイコちゃんでもひねくれ者でもない、どこにでも居そうな普通の(もう言うな?^^;)。。というわけで特別不快になることもなく淡々と読み進められた。しかし、逸夫のニックネームが堀内っていうのは作者は何がしたかったのかね?^^;(逸夫の名字は吉川)しかも結局そう呼ばれているくだりほとんどないし、ややこしいし不要な設定だったな。そして作者はどうして逸夫に恋をさせなかったのだろう?そういう風に読み取る事も出来る関係ではあるけれど。


個人的には敦子との関係より、祖母・いくの隠された人生の秘密や、それを知ってしまったことによるいくと逸夫との関係の変化を興味深く読んだ。リアルだよなあ、ほんとにうまい。問い詰めたりしないところも、いくの何も聞かれなかったことにしたい態度も、人間って実際こうだよなあと頷ける。ぶつかり合ったり罵りあったり、檄した感情を描き出すよりまぶたがピクっとするような些細な感情を描くほうがずっと難しいんじゃないかなと思う。

 

そしてラストにミッチーらしい仕掛けが。悲しいひんやりした気持ちがポカポカ温まるような騙しは大好きだ。敦子の遺書に関するこだわりについては最後までよくわからなかったけど、敦子だけじゃなくいくも混ざっていたのが良かったなあ。若者もお年寄りも、人生いろいろあるよね、うん。
派手さはないけれど、なかなか好みの良い作品でありました。