すべてが猫になる

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ノーマジーン  (ねこ3.8匹)

 

車椅子で生活をする鞄職人のシズカと、純真無垢なサルとの凸凹な"ふたり暮らし"。一日一杯のミルクをわけあい、収穫を待ちわびながらリンゴの木を育て、映画を観る約束をする――。しかし、隠された彼の"秘密"が明かされるとき、物語は終わりとはじまりを迎える……。赤毛のサルの正体は?そして彼が現れた目的とは?ミステリー界の旗手が描く、渾身の衝撃作!!


初野さんの本は出たら必ず読んでいるのだけど、今回ポプラ社から新刊が出ていたとは知らなかった。べるさんありがとありがと。びっくりするぐらいすぐ廻って来たけど、あまりまだ発売を知られてないのかな。


本書は、近未来ファンタジーと言うのだろうか。車椅子生活を余儀なくされた女性・シズカがひっそり人里離れて暮らす一軒家。依頼した介護ロボットは届かず、代わりに現れたのは「介護が得意」と自慢する、人語を話す赤毛のサル・ノーマジーン。正直、読み始めは「あれ?この人、こんなに文章ヘタだったっけ?」と思うぐらい入り込めなかった。シズカの師匠の話が出て来たあたりでもう挫折しようかと思ったぐらい。が、変わった革で繊細に作られる鞄作りの技術やその造形がとっても魅力的だし、何よりシズカに迷惑ばかりかける謎のノーマジーンのカワイイことカワイイこと!イマ風に言うなら、「萌え~~~!!」。ボケのノーマジーンとツッコミのシズカの会話がコミカルで楽しく、場合に寄っては殺気立つほど(笑)。そんな中で、ノーマジーンの存在がシズカの中でだんだん大きくなってゆき、ポシェットを作ってあげたり、一緒に映画を観たり、心温まるシーンに癒される。あ~、挿絵欲しかったなあ。ほおずきの鞄とかどんなんだろ?

 

ストーリー展開は後半勢いづいて、ノーマジーンの秘密やシズカの秘密が暴かれてゆく。かなり重大なことなんだから、ここ、もうちょっと描き込んで欲しかったな~(><)。事件のこともイマイチ把握しづらいしサラっとやり過ごされた感がもったいない。もっと2人の「危機」を「ああ、この2人もうだめなのかな」というぐらいの温度に持って行ってくれれば、ラストシーンはもっと効いたのになあ。こっちのエンジンがやっとかかって軌道に乗る前にそれがやってきたのは残念。ページ数の都合もあるんだろうけどね。まあ、それでも初野さんらしくなかなか良い作品だと思いますです。