すべてが猫になる

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11 eleven  (ねこ4.2匹)

 

業界を震撼させた『綺譚集』から7年、津原泰水が贈る、待望にして究極の作品集がついに刊行。著者ベスト短篇との声も上がっている「五色の舟」を筆頭に、「11」の異界の扉が開かれる。


正月休みに張り切って大作を読むとどこかの誰かがのたまっていたが、大作どころか1冊も読めなかった。ちなみに本書を読了したのは12/30。。それからずっっと取り掛かっているポケミスもいつまで経っても読み終わらない。読んでないから当たり前だが。

 

ということで、私、絶対ハマってるよね?な津原泰水さん。本書の評判は極めて高く、期待も上がる。ちなみに小林泰三氏のあだ名がヤスミンなので津原さんはヤスミーということになった。のかどうかは知らない。


「五色の舟」
見世物小屋で生計を立てる一家とその仲間が「くだん」と出逢うことにより生活が一変する物語。こういった世界観の短編はよそでも見掛けるが、そういうものの多くが破滅へ向かうのに対しこちらはなんとも言えない哀愁と愛情を文面から読み取った。一編目としてはかなり幸先のいい好感触の作品。

 

「延長コード」
娘を亡くした父親が、娘がかつて生活していたアパートを訪ねる。そこに居たのは、虚言と見栄ばかりの悲しい娘の残像だった。延長コードという小道具を使い、謎めいた恐怖感を喚起させるなんとも言えない味わいの作品。

 

「追ってくる少年」
わずか6ページの小品ながら、確固たる世界観が見える。死んだ少年の幻影、「最初に起きたこと」、その配列が見事。

 

「微笑面・改」
「改」ってナニかと思ったら、先に「微笑面」として発表された作品があるらしい。日記で構成された作品。愛した女への仕打ちから、破滅してゆく男の様が恐ろしい。語り口調のためか残酷ささえも美だ。

 

琥珀みがき」
手先の器用な女性の琥珀みがきとその回想。これも数ページの作品だが何年もこの女性を知っているような気分になった。

 

キリノ
語り口調でリズム良い文体の作品。キリノという少女について「思いつくこと」が延々と語られる。

 

「手」
耳から糸が出ていて、、の都市伝説、どっかで読んだことがあるような。母親と折り合いの悪い少女が友人と共に廃墟(?)を探検する物語。浮かびあがる不気味な「手」と、多感な時期の少女の身に起きた現実的な出来事と狂気とみまごう世界が見事に溶け合っている。

 

「クラーケン」
常に同じ犬種を、何代にもわたって飼い続ける女性。施設の女性を犬舎に閉じ込め始めたところから緊迫感が高まる。単なる犯罪というところに納まらない世界観がいい。経過があまりにも強烈だったためか、津原さんにしてはまとまりのある終結だなと思った。充分コワイんだけどね。

 

「YYとその身幹」
YYというイニシャルの美貌の女性とねんごろになる青年の物語。エログロに限りなく近いし冒頭は正直言って全然意味がわからなかったが^^;とんでもなく哀れな女性であり暗さと言ったら比較できるものはないが好みだった気がする。

 

テルミン嬢」
能動的音楽治療を受けている書店員の女性。彼女が突然店内で気が狂ったようにアリアを歌い始める。。
説明文のくだりについてはまたしても全然わからなかったが^^;、ハードSFだと思うことにした。難解さでは一番の作品かと思うが一番肌に合ったのが実はこれ。

 

「土の枕」
時代もの、かな。祖先にいた、別人の名を語り別人の人生を歩む男の物語。ちょっと毛色は今までと違うけれど、なかなかいい。歩んだのは他人の人生なのかなあ、本当に。と思った。


以上。全部書いちゃった^^。
どれも良かったけど、「五色の舟」「クラーケン」「テルミン嬢」が特に好きかな。すべて理解しましたー!とは言えないものも結構あるのだけど、文章や独自の世界観もさることながらやり切ってしまう心意気がいいね。作家が読者に媚びたら終わりだよ。愛されるならそれでもいいけど、音楽にも小説にも映画にもこういう自分にガツガツした存在って必要だと思うんだー。