すべてが猫になる

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飛蝗の農場/The Locust Farm  (ねこ3.5匹)

ジェレミー・ドロンフィールド著。創元推理文庫

ヨークシャーの荒れ野で農場をいとなむキャロルの前に謎めいた男が現れた。一夜の宿を請われ断わるの段を経て、不幸な経緯から、ショットガンで男に傷を負わせたキャロル。看護の心得のある彼女は応急処置をほどこしたが、意識を取り戻した男は、以前のことを何も覚えていないと言う。幻惑的な冒頭から忘れがたい結末まで、悪夢と戦慄が読者を震撼させる。驚嘆のデビュー長編!(裏表紙引用)


これ、何年前だかの「このミス」で1位になってませんでしたっけ。タイトルも面白いし創元だしということで買ってみた(105円だが)。

前知識といえば「サイコスリラー」で「少々変わっている」ぐらいしかなかったのだが、読んでみて一見確かに変わっている、のかな。サイコスリラーというよりはイギリス文学の感覚というか、イギリス女流サスペンスのほうに近い。おそらく「設定に空想力、論理に現実味」が基盤のミステリーとしては読めない。というのは、本書がリドルストーリーの体裁を取っていることの他に登場人物が真相を指南する役割にないから。私の想像だが、本書を好むのはミステリファンよりも読書の玄人の側かもしれない。


物語は「1人暮らしの女性のもとに現れた不審な男に怪我を負わせてしまい、面倒を見ることになった」
ところから始まる。こちらの落ち度とはいえ、妙齢の女性が救急車も警察も呼ばず男性を家にあげてしまう部分に大きな謎がある。女性の友人は当然のごとく彼女の行為を責めるが彼女は聞き入れない。恐らくこの女性にも脛に傷持つものがあるのだなと読者は想像するが、その真相は中盤で判明してしまう。展開の肝は男女の関係の変化にあり、時折挿入される「逃亡男性」のモノローグとの絡みが重視されるべき謎だった。

まあその不明人物と男女の関係性がいまいちモヤモヤで終わることと、女性の家で飼われている飛蝗の存在が特徴と言えば特徴だろうか。作者は中途半端に描いたつもりではなかろうが、ストーリー以外のところで翻弄させられる作品であることは間違いない。出来よりも話題性なのかな。