すべてが猫になる

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方舟は冬の国へ  (ねこ3.7匹)

西澤保彦著。光文社文庫

カメラと盗聴器で監視された別荘で、初対面の女性と少女と、仲睦まじい「家族」を演じる。失業中の十和人が請けた仕事は、そんな奇妙なものだった。期間は一ヶ月。そして、法外な報酬。いったい、誰が?なんのために?滞在を始めた三人の周りで起きる不可思議な現象。家族と、その愛のあり方をめぐる、鮮烈にしてキュートなファンタジック・ミステリー!(裏表紙引用)


む。これは中期の西澤作品の中ではだいぶ面白いほうじゃないかい。

同居する男女と娘役がテレパシーで通じ合うというお得意のSF要素を盛り込ませ、さらに作者十八番の「小さな謎解き」を随所に挟んでいるこの作品。そして彼らを監視しているのは全員日本語ネイティブ外国人(笑)という二重視点になっている。逆ならまだしも、、と思わないでもないが日本人が描く日本人読者のための物語なのだから別にいいか。人物描写が相変わらず濃い上に会話も軽妙で親しみやすく、小難しい説明抜きに筆力で引っ張っていくテンポの良さがさすが。

本筋となっているのは、彼らに仕事を依頼した組織?の正体とその目的である。このあたりSF要素じゃなくとも、というような真相になっているのは残念。彼らを選んだ理由がそれなら、本物と彼との年齢差がどうしても気になる。まあ、それでも人と人の密接な関わりや心の交流がドラマ仕立てとなっていてなんとなくホロリ。論理に力を入れていないんだろうね。

一つだけ。多分この主人公、読者の好感度は高いと思われる。がしかし。10歳の少女に「女を感じてしまう」はどうなの。サラリと描かれたこの一文が引っかかって、、正直キモイんですけど。