すべてが猫になる

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追憶のかけら  (ねこ3.5匹)

貫井徳郎著。文春文庫。

事故で愛妻を喪い、失意の只中にあるうだつの上がらない大学講師の松嶋は、物故作家の未発表手記を入手する。絶望を乗り越え、名を上げるために、物故作家の自殺の真相を究明しようと調査を開始するが、彼の行く手には得体の知れない悪意が横たわっていた。二転三転する物語の結末は?著者渾身の傑作巨編。(裏表紙引用)


貫井さんの数ある作品群の中ではあまり存在感のなさそうな小説。ページ数のわりにね。今こういう内容の本は自分にどうかと思いつつ、でもウチってこういう本しかないんだよ^^;

というわけでとても長い小説なのだが、その原因のひとつは300ページもの<作中作>が入っているから。ある国文科大学講師が、あるツテから手に入れた物故作家の手記。それは自殺した作家がそうせざるを得なかった理由がしたためられた衝撃の内容だったという。これが丸々古い文体で掲載されているわけ。最初文体が辛いなと思ったけど、これがなかなかに面白かった。深い意味なく人のために起こした自分の行動が、他の人間を不幸にして行く。。そして、肝心の「うらまれる理由」はまったくわからないまま幕を閉じる。その原因について捜査する展開なのだが、この手記をめぐって主人公が様々な悪意と真相に翻弄されていく。

二転三転どころか五転ぐらいしたような印象^^;最初のほうに真相だと思っていた事柄が個人的にあまりにも「有り得ない」ものだったから、そうではなかったことで「ああ良かった」と思ったのが最初。貫井作品だから「悪意ある人々」の集まりなのかと思いきや、この作品に関してはそういう人物が実はほとんど居ない。それが作品を地味にさせているとも言えるけども、真相があまりにもどす黒かったから腹が立つを通り越して唖然としてしまう。

だけど物語は光ある方向へ進み終わる。そういう意味では「愛される作品」に成り得るオススメ作品かと思うのだが。