すべてが猫になる

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背表紙は歌う  (ねこ3.7匹)

大崎梢著。東京創元社

「とある地方の小さな書店が経営の危機にあるらしい」よくある悲しい噂のひとつだと思っていたが、書店営業仲間の女性がそのことを妙に気にしていて……。個性的な面々に囲まれつつ奮闘する井辻くんは、東に西に今日も大忙し!
出版社の新人営業マンの活躍を描いた、本と書店を愛する全ての人に捧げるハートフル・ミステリ。<出版社営業・井辻智紀の業務日誌>シリーズ第二弾!(紹介文引用)


「配達あかずきん」の成風堂シリーズで知られる<書店ミステリ>がお得意の、大崎梢さんの別シリーズ、待望の第二弾。書店員ミステリも好きなんだけど、私はこっちも好きだな。長ったらしいシリーズ名が付いているけど、お友達の間では<ひつじくんシリーズ>と呼ばれ愛されているのだ。

今回も五編収録の連作短編集。
前作でも同じことを書いたのかもしれないが、出版社の営業さんのお話というのはかなり興味が持てる。
作者が元書店員さんなので、一生懸命取材をされる普通の作家さんが描くのと比べさらにリアリティがあるのだと推察する。書店まわりが主な仕事のようなので、書店員さんが深く関わり合って来る。帯の宣伝文を書いてもらういきさつとか、文学賞候補にあがった本についての心構えとか、涙を飲んで返品する本、不景気から来る新刊ラッシュの理由など、知らなかったことがたくさん知れて楽しかったし、今までの文学賞に対する自分の色眼鏡を外さなくちゃいけないな、と思ったりもした。


ところで、前作ではここまで思わなかった記憶があるが、ゆるミスはゆるミスでも、ストーリーとしてもう少し完成していて欲しかった、と思う作品がひとつふたつ存在した。「え、これ一体何の話だったの?」と思う作品や、これは結論を書かなくちゃダメだろ、と思うような作品もあったのだ。謎の提示はどれも良いのに、もったいないと思う。そして、自分が大好きな作家さんの新刊情報を知ったとき、心揺さぶるような本を読み終わったとき、自分が真っ先に誰かと話したいのはその本が何万部売れるかランキング本で何位だったか、ではないのだ。実情には興味があって楽しく読めても、この世界には付いて行けない自分が目に見えるんだな。


(244P/読書所要時間2:00)