すべてが猫になる

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ウィスパーズ/Whispers  (ねこ3.7匹)

ディーン・R・クーンツ著。ハヤカワ文庫。

大邸宅に住むハリウッドの若き女性脚本家ヒラリー・トーマスを、突然の侵入者が襲った。一度会っただけの、柔和で紳士的な印象さえあった中年男が、耳を疑うようなおぞましい欲情を口にし、彼女を強姦して殺そうと迫ってきたのだ。とっさの機転で一度は暴漢を撃退したヒラリーだったが、男は何かに憑かれたような異常な執念で再び侵入し、彼女に襲いかかってきた。窮地に立ったヒラリーは、ついにその手にナイフを握った!(上巻裏表紙引用)


クーンツはどれも読みやすいけど、本作はさらに輪をかけて読みやすかったほう。上巻と下巻で展開が変わるのが飽きさせないね。怖さで言ってもかなりのもんだし、恋愛要素がホッとさせるし、ああもういちいち楽しませ方をわかってるなあ、って感じ。

最初は気の狂った暴漢男に襲われる恐怖から始まって、脚本家という立場から売名行為を疑われてイライラさせられる。その次にちょっとしたロマンスがあって、ホッとしたのもつかの間のピンチから大事件に。そこからが本書の本領が発揮で、殺して埋葬したはずの男が生き返って再び襲われかかる、というのがおそろしポイントマックス。そこまでならまああるかな、って感じのホラーで終わるんだけど、生き返った男の謎を探る方向に物語が進展するからたまらない。暴漢の正体というか育った環境もこれまたよくある形ではあるのだけど、本書はそれだけでは済ませない。謎を解き、これでもかというほど掘り下げまくった暴漢の生い立ちには寒気がする。そのピークを最後の最後まであっためて出して来ないところがまたいいんだよなあ。何が凄いって、こういうストーリーでさえクーンツならハッピーエンドにするところだよ(笑)。


(上巻395P下巻356P/読書所要時間5:00)