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バイバイ、ブラックバード  (ねこ4.2匹)

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伊坂幸太郎著。双葉社

太宰治の未完の絶筆「グッド・バイ」から想像を膨らませて創った、まったく新しい物語。1話が50人だけのために書かれた「ゆうびん小説」が、いまあなたのもとに。 (紹介文引用)


伊坂幸太郎、完全復活!

せっかくなので、より楽しむために元ネタの「グッド・バイ」を先に読んでみた。未完なのが残念だが、
こちらの主人公星野が田島で繭美がキヌ子だということがわかればよろしい。多数の女性と付き合っている青年が、怪力女の協力を得て(?)別れを告げに行く、という設定がまるまる借りて来た部分。ただ、キャラクターは微妙に違いが。星野が「あのバス」に乗せられるという不思議な設定もホラ吹きなところも含めて、ほとんどの小道具やセンスは伊坂幸太郎の世界だと思っていい。なんといっても、誰が読んでも「ま、マツコ・デラックス??」と連想してしまう繭美の造詣が凄すぎてこれだけで成功だ。辞書を持ち歩くところがツボ(笑)。

さて、「ゆうびん小説」とはなんじゃらほい、ということで。双葉社の企画で、抽選で当たった50人の方に短篇が送られるというものだそう。ある日、自分の家の郵便受けに小説が届いていたら、、という発想がとんでもなくステキだと思った。そういうわけで本書は短編集なのだが、読んでいる感覚としては長篇に近いものがあった。連作と言ってもキャラクターが共通しているだけのものから前後が繋がって結末が出来上がるものから色々あるが、こちらは後者。出て来るどの女性も、女優であったり、子持ちであったり、泥棒(笑)であったりで、個性的で魅力いっぱいのストーリーに仕上がっている。

個人的にはラスト一行の台詞が気に入った霜月りさ子の章や、乳がん検診を題材にした神田那美子の人柄が特に気に入った。物語を動かしているのが繭美と女性たちや、名脇役の不知火刑事(笑)、女優の章の佐野さんなどなど、多くの人々。はっきり言って星野はどうでもいい(笑)。自分は好みではないが、モテそうな感じは確かにするけどね。

それにしても、毎回思う。短篇でも毎回思うのに、長篇として読んでも毎回思う。どうして伊坂さんが描くラストシーンはいつもアホみたいに素敵なんだろう。これでキャラに生命力が吹き込まれるから、どんな嘘話も嘘じゃなくなるんだ。自分には、繭美が颯爽と走り去る後ろ姿が見えたような気がした。


(269P/読書所要時間2:30)