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ふたりの距離の概算  (ねこ3.8匹)

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米澤穂信著。角川書店

米澤穂信、青春ミステリーの傑作シリーズ〈古典部〉最新作!春を迎え、奉太郎たち古典部に新入生・大日向友子が仮入部することに。だが彼女は本入部直前、急に辞めると告げてきた。入部締切日のマラソン大会で、奉太郎は長距離を走りながら新入生の心変わりの真相を推理する! (あらすじ引用)


古典部シリーズ、待望の第5弾。
今回はホータロー達古典部員が通う神山高校のマラソン大会を舞台に、ホータローがある謎を解き明かして行くストーリー。こちらは別名省エネシリーズと呼ばれているが、小市民シリーズと同じく、「自分で言ってるほど君はそういう人ではないよ」という基盤のもと学校生活と事件を通してキャラクターが成長していく。今回はその成長と人間関係の推移が一番如実に現れて来た作品ではないか。

仮入部していた女子生徒がなぜ突然入部を辞退したのか?それには千反田えるの言動が大きく関わっているらしい。普段は他人に興味を示さず、積極的に非生産的な行動はしないホータローが、珍しく全力で謎に取り組んで行く。その原動力となるのが千反田えるに対する情であるのは明確で、変化と言えば彼がそれを自覚しようとしているところだろうか。
好き嫌いを把握しているぐらい、彼は他人に関心を示してきたのか?年月の長さがそれを解決するなら、
十分彼にはその素質があると思う。新たに知り合った女子生徒の性格や好み、思考を推理し、他人と向き合おうとすることによって変われる何かがある。いくら達観していようとも、この年代ならまだまだ頭で考えたことを経験とは呼べないはずだ。

里志側にもちょっとした進展があったし、シリーズものとしてはここが分岐点と成り得るかもしれない。
メインの謎と別に、ちょっとしたミステリーも挟まれていて、そのあたりも作者の成長著しく喜ばしいかぎり。あまり好みのシリーズではなかったのだが、少し愛着が湧いて来た。


(253P/読書所要時間2:00)