すべてが猫になる

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僕の殺人  (ねこ3.7匹)

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太田忠司著。講談社文庫。

僕が5歳の時、信州の別荘で起こった惨劇―それは僕自身の記憶と両親を奪い去った。あれから10年、事件の真相に迫ろうとする男が現れ、殺された。あの事件には、なにか封印された秘密がある。僕は犠牲者ではなく、加害者だったのかも…。意想外のトリックとみずみずしい感性で描く青春本格ミステリー。 (裏表紙引用)


とっくに絶版となっている、太田さんのデビュー作に挑戦。
直感だけどこれ、ウチの女性のお仲間さん、好きな人多いんじゃない?何がって、主人公・裕司のキャラクター。5歳の時に母が自殺、父は別荘の階段から落ちて植物状態。それが原因で記憶を失い、叔父の家に世話になっている。性格は暗めだけど頭の回転は速い、だけど大人に難しい言葉を使ってやりこめようとする子供っぽい一面も。

過去や境遇がとんでもなく重いので、普通の青春ミステリーだと思って手を出すと痛い目に遭うかも。事件の犠牲者であり、加害者であり、探偵であり、証人であり、またトリックでもあり、さらに記述者でもある裕司。この意味がすべてわかるのは終盤だが、過去の事件そのもののトリックよりも裕司が誰か?というところにミステリとしての比重を置いて読んだ方が楽しめると思う。裕司と叔父、叔母、そして従兄妹である泉、さらにフリーライターとして裕司に関わって来た小林との関係もヒリヒリしていて読ませる感じ。展開も素早いので興味がよそに行かない長所も。

ラストでどんでん返しがあるが、欲を言えば「人間関係の機微」のところに比重が多く圧し掛かり、キャラクターを壊し過ぎたのが残念だと感じた。ある意味作品の印象は強まったし、ジェネレーションギャップではない意味での距離感だったので好みの範囲内か。

(297P/読書所要時間2:00)