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ライノクス殺人事件/Rynox  (ねこ3.7匹)

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フィリップ・マクドナルド著。創元推理文庫

ライノクスの社長フランシス・サヴィアー・ベネディック、通称F・X。会った者はたいてい彼のことを一目で好きになる。ごく僅かな例外を除いては。唯一の“例外”たるマーシュは、彼に積年の恨みを抱いているという。それが高じてか、コテージを訪れた郵便配達夫に悪態をつき、駅や劇場でも奇行を重ねるなど暴走寸前。たまりかねて面談を約した夜、F・Xの自宅で時ならぬ銃声が―。 (裏表紙引用)


「Xに対する逮捕状」記事の時に、この作家さんは全く好みではないし他著は読まないだろうと書いた。今この場を借りて堂々と撤回する。言い訳をさせてもらうと、本書は復刊である。新訳で字が大きい、改行が活発で読みやすい雰囲気甚だしい。良い古典を読むたびに復刊がどうの絶版がああのと喚くからには、復刊されたそれがなんであれ喜びの鼻歌まじりにいそいそと買うべきだ。

そして結論から言うと、本書は古典の常道を進みやはり目を瞠るミステリの衝撃などない。どちらかと言うとゲーム性、パズル性、構成の妙に重点が行きすぎ小説の態を成していないとさえ思う。もっと言うと、ここまで行くとふざけているんじゃないかとさえ思う。プロローグに結末を持って来る無邪気という名のネタ晴らし、ユニークな語り口で緊迫感の邪魔をする<解説>の導入、謎解きは犯人による<計画表>しかも本人の自己評価つきという頗るお茶目街道まっしぐらなこの作品。明らかに意図的なキャラ作りは多くのミステリ読者への寛容なるヒントだし、プロローグ含め完全なる犯人の自己紹介小説である。

この正道から一歩脇に逸れた「おかしさ」は自分の好みなのだ。万人受けしそうな「X~」よりも本書がツボに嵌った事は、我ながら納得。

(244P/読書所要時間2:30)