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赤々煉恋  (ねこ3.8匹)

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朱川湊人著。創元推理文庫

人の世はなんとおぞましく、美しいのだろう―。若く美しいまま亡くなった妹の思い出を残したいと、凄腕だという遺体専門のカメラマンに写真撮影を依頼した早苗。ところが…。初恋、純愛、そして日常と非日常への切望の数々。赤々とした、炎のような何かに身を焦がす者たちの行く末を、切ない余韻の残る筆致で巧みに描く。直木賞作家・朱川湊人の真骨頂を、連作集であなたに。 (裏表紙引用)


久々の朱川さん文庫新刊は、なんと創元推理文庫から!「せきせきれんれん」と読みます^^。国内もので背表紙が白って初めて見た。今までは全部黄色だったよね。(海外ものは元々色分けが盛んで、白はホラー、オカルト系)国内ものもジャンルで色分けして行く事になったのかな。

というわけで、ホラー集。
とてもとても良かったので、一編ずつ感想を。

『死体写真師』
筋は↑の引用をご参照あれ。
カメラマンがロシア人の女性というのがこだわりを感じさせる。死に顔を写真におさめたい、なんて普通思うか?^^;しかも、死体にポーズまで取らせて着飾らせて。。。ぉぇ。絶対に碌な事にならない雰囲気が漂うのだけど、まさかここまでとは。。オカルトだけど、世俗的なのよね。ぉぇ。

『レイニー・エレーン』
佐原が出会い系サイトで知り合った小太りの女。彼女の要望でお洒落なホテルを利用する事になったが、女が語り始めた幽霊話が佐原を震え上がらせた。。
これもまた世俗的。セ○クスの興奮を”お祭り”に喩え、欲望に溺れる男女。こういうホテルに幽霊話が似合うのはなぜだろう。普通の幽霊話から少し展開を変えて、主人公がおぞましい運命を辿る。。

『アタシの、いちばん、ほしいもの』
高校生女子の一人称で語られるお話。叙情的で、切なさすら感じる。1つちょっとした仕掛けが施されている。”アタシ”が公園で出会った少女とその母親の残酷な運命。1、2編目を読んで来た流れでは、”救い”の中に歪さが感じられた。が、本作にはいかなる形の救いもない。

『私はフランセス』
ある女性が、10年前のクラスメイトに宛てて書いた手紙。さほど親しくもなかったクラスメイトになぜ今更身の上話を語るのか。悲惨な人生を綴ったその手紙の内容はやがて。。。
ひぇぇ^^;ちょっと怪奇乱歩を意識したお話。人の性癖って色々あるけど、これは趣味悪いわ^^;
魂で愛されるのは幸せな事だけれど、ここにある人々は歪みにしか見えない。

『いつか、静かの海に』
父子家庭で育った男が、三十年前に体験した不思議なお話。成り行きで知らない男のアパートに招待された少年時代の彼は、そのアパートで世にも奇妙な女性と出会うが。。。
いきなりSFちっく。この女性の身体上の設定はかなり面白いと思う。結末は予想を上回る地味さだった(笑)。いや、これがまた哀愁があっていいんだよなあ。


以上。
どれも水準以上の出来で、さくさくっと読めた。本書は完全に猟奇的、怪奇的ホラーに偏っていてカラーが安定している。いっそ芸術的とも言える恐怖は、文学作家ならではのものだろう。ホラーを出発点とした作家さんなだけに、キメどころは容赦も遠慮もない描写だ。ホラーに耐性がない人はご注意。
表紙とタイトルの美しさがピタッとはまる作品でありながら、それだけを要求する読者には間違いなくダメージをも与えるだろう。

                             (326P/読書所要時間2:30)