すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

掌(て)の中の小鳥  (ねこ3.7匹)

イメージ 1

加納朋子著。創元推理文庫

ここ“エッグ・スタンド”はカクテルリストの充実した小粋な店。謎めいた話を聞かせてくれる若いカップル、すっかりお見通しといった風の紳士、今宵も常連の顔が並んでいます。狂言誘拐を企んだ昔話やマンションの一室が消えてしまう奇談に興味はおありでしょうか?ミステリがお好きなあなたには、満足していただけること請け合い。?お席はこちらです。ごゆっくりどうぞ。 (裏表紙引用)


加納さんのノンシリーズ連作集。
短編集となっているのだが、俗に言う連作ものとも少し趣向が違う変わった作品だ。登場人物のリンクは当然ながら、一話目の主人公が出逢った人物が二話目の語り手となる。キャラを別角度で見る意図もあろうが、時間経過はそのまま次の事件へと流れて行くのだ。

『掌の中の小鳥』
”僕”が心寄せていたアートクラブに所属する女性には、優れた画才があった。しかし彼女を射止めたのは”僕”の先輩で。。SCENE1・SCENE2に章が分かれている構成。あの日アートクラブで起こった事件の真相が明らかになる。意外性という意味ではこれ以上の真相はなかろうが、心理面で納得がいかない。こういう人生の選択をする人間は居るのだが、淋しいな。そしてSCENE2ではアートクラブの女性と先輩は登場しなくなり、視点だけを同じくして物語のパートナーを変える。ある登校拒否の女子が経験した、祖母とのひと夏。成人し、きっかけなんて、つまらないものだったりすると嘯く彼女だが、”僕”の目はごまかされなかった。簡素で幼稚ですらあるトリックだが、血の通ったあたたかいお話だ。
これが通用しない子供も沢山居るんだろうけども。

『桜月夜』
なんと、いきなり鮎哲の三番館シリーズみたいな設定に。三十路を越えた女性バーテンダーがこの後探偵役となるのだが、ここでは彼女と1編目で知り合った女性の正体を明かされるまでのミステリが描かれる。なかなかに凝ったトリックを用いていて読みごたえあり。

自転車泥棒
作品中、どれが好きかと言われるとこれが好きだ。
”僕”がパーティー会場から連れ出した女性(紗英)とは、うまく交際を続けているようだ。”僕”が喫茶店で体験した傘泥棒、紗英が自転車盗難に遭ってからの顛末。罪の意識をベースに語られる物語だが、
ほんの脇役と思えた自転車泥棒が主人公を喰った。年代を越えた、ちょっとした人生劇場。

『できない相談』
紗英と、『桜月夜』に登場した少年が大人になって親密になった。これはそんな2人が遭遇したある恋愛ドラマと、消失トリックの組み合わせ。

『エッグ・スタンド』
舞台はまたもバーへ。”僕”の従兄が水商売の女性と婚約するに至り、厳格そのものの一家が猛反対。”僕”と従妹の礼子は婚約者の顔を拝もうと「大寄せ茶会」に参加するが。。
エンゲージリング盗難事件と、”僕”の古い過去が招いた些細なしがらみ。その2つが混ざり合った時、
”僕”は女性というものの本質を目の当たりにする。。
この礼子さん、あまり好きじゃなかったな。女心に焦点をあてたお話。燃え上がる嫉妬も確かに女性の一面ではあるけれど、忘却を得意とするのはむしろ男性より女性の方じゃないかな。


以上。
なんとなく、普通の短編集じゃないので纏めにくかった。。構成による読みづらさも感じたし。
泉さん(バーテンダー)の使い方もどうもおさまりが良くない。シリーズキャラにすればいいのに。ていうか、解説の佳多山さんが良すぎた。。あんなに素敵な解説を読まされたら、記事書く気力もなくすわぃ。

というわけで、加納さん読破^^v

                             (267P/読書所要時間2:00)