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ジュリエット  (ねこ3.6匹)

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伊島りすと著。角川ホラー文庫

娘と息子を連れ、亡妻との思い出の地である南の島を訪れた小泉健次。彼は、その島にある建設途中のゴルフ場の管理の仕事をすることになっていた。ある日、健次は息子にせがまれて採った貝を貝殻にしようと浜に出ると、出会った老人から“魂抜け”という言葉を聞く。貝から中身が落ちるところは決して見てはいけないのだそうだ。だが、親子三人はその瞬間を偶然目撃してしまう。その日を境に彼らの周りで不思議な出来事が起こり始めた…。第八回日本ホラー小説大賞受賞作。 (裏表紙引用)


別にホラー大賞受賞という冠に異論はないが、何が狙いだったのかよくわからない作品だなあと思う。
設定はモロにキングの「シャイニング」「ペット・セマタリー」から借りて来たもので、違うと言っても通らないほど酷似している。(作中でも作品タイトルが出て来る)それならそれでわかりやすいので別にいいのだが、そこに不気味な生物や呪いの水字貝を絡めて来るからカラーがわからなくなる。前半は特に動物の死やリストカットなどのグロシーンの描写がきついが、後半は”思い出が集まる”磁場の方に物語が移行してまるで別のお話となった感がある。どちらに惹き付けられていたかで読後感も意見が分かれそうだが、自分は意外にも前者だ。娘の情緒不安定さも不快さを増し、その割に父親の追い詰められた恐怖感が薄められて行く格好。これはラストの感動への布石であるのは理解出来るが、もっと前半の小道具をきちんと回収して欲しかった。文章は読みやすく詩的ですらあり、表現の端々にセンスを感じるだけに”惜しい”という評価に留めたいと思う。正当派ホラーとしては”面白い”の範疇に入るのではないだろうか。

                             (355P/読書所要時間2:30)