すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

チューイングボーン  (ねこ3.6匹)

イメージ 1

大山尚利著。角川ホラー文庫

ロマンスカーの展望車から三度、外の風景を撮ってください―”原戸登は大学の同窓生・嶋田里美から奇妙なビデオ撮影を依頼された。だが、登は一度ならず二度までも、人身事故の瞬間を撮影してしまう。そして最後の三回目。登のビデオには列車に飛び込む里美の姿が…。死の連環に秘められた恐るべき真相とは?第12回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。 (裏表紙引用)


初めて読む作家さんだが、これは評価が難しい。
純文学のような内省的な文章、繰り返される同じような展開、ホラーにしては虫も幽霊も妖怪も殺人鬼も扱わず、文面だけで恐怖をただひたすら喚起して来る作品だ。恐怖の対象は人間であるのだが、主人公の青年が壊れるまでの経過が鈍足なのだ。いかにも現代の、実家に寄生したフリーター青年を描いており、仕事は真面目だが被害者意識が強くいわゆる根暗である。どことなく親戚に一人は居そうな人物造形で、異常とまでは行かない。このあたりは好き嫌いが分かれるところだろう。

最初は文章に躓きそうになったが、ノって来ると興味が湧いて来た。
ロマンスカーの展望車で撮影するたびに、人身事故を目撃する主人公。目的や原因が不明なまま、莫大な報酬だけ受け取るという境遇にさらされた彼は、仕事に嫌気が差しながらも好奇心を止められない。
黒幕を突き止めようとするが、なかなかその首謀者には行き当たらないのだ。
面白い。合間に挟まれる愛犬サリーの玩具”チューイングボーン”や、バイト先の中国人同僚、撮影を開始してから疼き始めた虫歯など、物語作りに慣れすら感じる。

しかし、真相はやはりがやはりと言ったところか。纏まりはあるが、無難としか言えない。歯医者やチューイングボーンの関わりもあまり見事とは思えず残念なところ。そして何より嫌悪感を与えられたのが、やはり主人公がとった愛犬サリーへの行動だろう。どんな読者でも、ここで衝撃を受けたに違いない。愛犬家でない自分でさえ、あのくだりがあっただけで駄作だと罵りたくなったぐらいだ。気を取り直して読み続けたが、ラストの映画的に疾走感のある物語のけじめを読んで一応は気持ちの終焉をみた。
なんか、色々疲れたなあ。。

                             (318P/読書所要時間3:30)