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沙羅は和子の名を呼ぶ  (ねこ3.7匹)

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加納朋子著。集英社文庫

もしもあの時、別の選択をしていれば、全く違う人生を歩んでいたのだろうか…。平凡な会社員・元城一樹のふとした夢想が、すべての始まりだった。一人娘の和子の前に姿をあらわした不思議な少女沙羅。その名前が甦らせる、消し去ったはずの過去。やがて、今ある世界と、あり得たはずの世界とが交錯しはじめて?。表題作を含む、全10編を収録。珠玉のミステリ短編集。 (裏表紙引用)


加納さんのノンシリーズ短編集。
ミステリというより、「幽霊や人の死を扱ったもの」が大半を占めていて、これまた今までとは違った感触。何でも自分の世界に取り込んじゃうね、加納さんは。

『黒いベールの貴婦人』
廃れた病院にこっそり忍び込んだ少年が出逢った不思議な少女のお話。
小さな恋と、死者の想いと、親の愛情。不運に見舞われた家族と少年の、ささやかな通じ合い。

『エンジェル・ムーン』
茶店を経営する男と、その甥。そして現れる一人の女性。
少しの悪意と、哀しいロマンスが融合した切ないお話。

『フリージング・サマー』
いとこの真弓がニューヨークに留学する間、「わたし」は真弓のマンションに住み始めた。。
「わたし」の前に現われた謎の少年。なんだかぼんやり夢うつつの中にいるようで、意外性がありとても気に入った作品。

『天使の都』
タイに単身赴任した夫に会う為、妻は初めてタイの地を踏んだが。。。
お互いぎくしゃくとした関係の夫婦。2人の間にあった哀しい過去と妻の決意は、異国の地で変化し始めた。ひどい夫だと思ったけど、読み終わって「良かったねえ」と思える。

『海を見に行く日』
母が娘に語りかけるという独特の文体。
かつて傷心し一人旅に出掛けた経験を語る母。。そのお話の流れは優しさと理解に満ちあふれていて、とても素敵だ。

『橘の宿』『花盗人』
ショートストーリー。可も不可もなく。

『商店街の夜』
古ぼけたシャッターに描かれた、広大で奥行のあるアート。青年は、毎日そのアートを眺めているうちに。。
加納さんには珍しく、「人」を描いていないね。

『オレンジの半分』
双子の姉妹、真奈と加奈(マナカナ!^^)。真奈の紹介で知らない男の子とデートをする事になった加奈だが、当日すっぽかされて。。。
自分は双子じゃないので、この嫉妬するけど同じでいたい、という感覚はわからないなー。

『沙羅は和子の名を呼ぶ』
都会から田舎町へ引っ越して来た家族。一人娘の和子(ワコ)は学校に馴染めず、”沙羅”と名乗る不思議な少女と出逢う。。
これはまるで、”お父さん”のお話ですね。出世の為に選んだ妻、そして娘。もしあの時別の女性を選んでいたら、どんな子供が生まれていたのだろう?という、一見残酷な夢想から起こった出来事。和子だけでなく、理想的な妻の心の内までもを描いていたのがとてもいい。


以上。
ほどよく楽しめた作品集。幸せと、悲しみと、両面を描いていてなかなかの良作。さあこれで加納さんの未読本があと1冊となりました~。

                             (297P/読書所要時間2:30)