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女には向かない職業/An Unsuitable Job for a Woman  (ねこ3.7匹)

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P・D・ジェイムズ著。ハヤカワ文庫。

探偵稼業は女には向かない。ましてや、22歳の世間知らずの娘には―誰もが言ったけれど、コーデリアの決意はかたかった。自殺した共同経営者の不幸だった魂のために、一人で探偵事務所を続けるのだ。最初の依頼は、突然大学を中退しみずから命を断った青年の自殺の理由を調べてほしいというものだった。コーデリアはさっそく調査にかかったが、やがて自殺の状況に不審な事実が浮かび上がってきた…可憐な女探偵コーデリア・グレイ登場。イギリス女流本格派の第一人者が、ケンブリッジ郊外の田舎町を舞台に新米探偵のひたむきな活躍を描く。 (裏表紙引用)


自分は基本的にというか絶対的にハードボイルドは読まないのだけど、この作品の主人公と作者が女性だと言う事で試しに読んでみた。とりあえず、誰でも聞いた事のあるタイトル=名作だろうからして退屈はすまい、と。

その予測は半分正解、半分外れ。やはり同性だからと言って必ずしも苦手意識をクリア出来るという甘いものではなかった。この主人公・コーデリア・グレイがあまりにもかっこ良すぎるのである。尊敬し信頼していた上司が手首を切って自殺、そしてコーデリア自身が第一発見者になってしまうという衝撃的な出だし。気丈にもコーデリアは22歳という若さで、上司バーニイの事務所を引き継ぐ決意をする。早速舞い込んだ依頼は科学者の息子が自殺した理由を調べるというものだった。

事件展開そのものは、序盤は予想通り。一人で聞き込みを続け、危険な境遇に自分を追い込んだりもする。そして案の定、事件を操る謎の人物に命を狙われるのである。自分は身体を使った捜査より頭脳戦を好みとする読み手なので、「どうせ助かるんだろ」とわかるヒロインの危機的状況にはあまりハラハラしないタチだ。そして、本人が勇気と機転で乗り越えるよりも頼りない助手や口の悪い親友が土壇場で支えてくれるものの方が好きとくる。やはり個人が物語を色付けるのには無理があり、やや退屈を感じていたのは否めない。

が、侮ってはいけない。読み継がれる名作にはやはり表し難い魅力があった。
井戸に落とされて絶体絶命となったコーデリアの、あまりにも冷静かつ的確な判断と行動力はどうだろう。自分なら間違いなくぶくぶくと沈んで一巻の終わりである。また、頭が良すぎるが為に気付いた恐ろしい可能性に対し、あっさりと心の糸が切れて諦めてしまったりもするのだ。
さらに、バーニイ亡き後も何があっても涙を見せなかったコーデリアの、ダルグリッシュ警部への叫び。きっとずっと泣きたかったんだろう。悲しみのあまり、彼の遺志を継ぐ事に一生懸命になる事で心を紛らわせていたのだろう。それが分かった時、自分があまりにも表面的にしか物語を捉えていなかった事を知った。好みではないと言った事を撤回はしないが、久々に胸が熱くなる読書をした。コーデリア、頑張れ!

                             (316P/読書所要時間3:00)