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誰の死体?/Whose Body?  (ねこ3.6匹)

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ドロシー・L・セイヤーズ著。創元推理文庫

実直な建築家が住むフラットの浴室に、ある朝見知らぬ男の死体が出現した。場所柄男は素っ裸で、身につけているものといえば、金縁の鼻眼鏡と金鎖のみ。いったいこれは誰の死体なのか?卓抜した謎の魅力とウイットに富む会話、そして、この一作が初登場となる貴族探偵ピーター・ウィムジイ卿。クリスティと並ぶミステリの女王がモダンなセンスを駆使して贈る会心の長編第一作。 (裏表紙引用)


クリスティ、ブランドと並んで人気のセイヤーズ。ロングロングタイムアゴーに短編集を読んで「こりゃダメだ、合わん」と思っていたのだが、ミステリ歴20年以上、30歳も過ぎてそれじゃいけない。貴族探偵ピーター卿、さあかかってこい。

てなわけで、面白かった。
浅見光彦様に出逢ってから、次男坊探偵は大の好物なのである。爵位継承者ではないので気ままに探偵活動が行なえるという設定も良いし、何と言ってもピーター卿の洒落っけたっぷりの会話がこの作品の最大のチャームポイントだと言えよう。引用や替え歌が多用された皮肉でいたずら心満載のピーター卿の台詞は読者だけでなく、警察関係者をもケムに巻く。随分な博識のようなので、読者側にも相応の興味がなければ辛いところ。貴族、労働者、階級の差がはっきり映し出されているところも時代の特徴だろう。同時にピーター卿にも夢に魘されるような精神的外傷があるらしく、このあたりも女性読者としては母性本能くすぐる。女性作家ならではの手腕だ。そして忘れてはいけないのがピーター卿の従僕、バンター。周りが引くほどの礼儀正しさと、主人への献身。この愛すべきパートナーが居なければ本書の魅力は半減したかもしれないと言っても過言ではない。

本書は長編第1作。これからますますピーター卿の推理が冴え、輝かしい活躍を魅せてくれるのだと期待してやまない。言葉は悪いが、この程度のもので多くの真性ミステリファンをも夢中にさせているとは思えない。きっと語り継がれる名作があるのだろう。

                             (277P/読書所要時間3:00)