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ヤフーブログからお引越し。

いちばん初めにあった海  (ねこ3.8匹)

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加納朋子著。角川文庫。

堀井千波は周囲の騒音に嫌気がさし、引っ越しの準備を始めた。その最中に見つけた一冊の本、『いちばん初めにあった海』。読んだ覚えのない本のページをめくると、その間から未開封の手紙が…。差出人は“YUKI”。だが、千波にはこの人物に全く心当たりがない。しかも、開封すると、「私も人を殺したことがあるから」という謎めいた内容が書かれていた。“YUKI”とは誰なのか?なぜ、ふと目を惹いたこの本に手紙がはさまれていたのか?千波の過去の記憶を辿る旅が始まった?。心に傷を負った二人の女性の絆と再生を描く感動のミステリー。 (裏表紙引用)


加納さんのシリーズ外作品。2つの繋がり合った中編が収録されている。
ミステリーというよりファンタジー文学に近く、文体や作風の優しさや悲しさは間違いなく加納さんでありながら、今まで読んだ事のない加納作品となっている。

表題作の『いちばん初めにあった海』。
一人暮らしの千波という女性は、ある身体的障害を持っている。彼女を追い込んだその理由と、女子校時代の淡い友情の記憶。千波が見つけた一冊の本から出て来た意味深な手紙が、彼女の忘れられた過去を呼び覚ます。海を母親の体内に例え、小説から美しい言葉が綴られてゆく。別視点でも語られる謎の人物の語りと平行して、千波に起こった出来事がある変化をもたらす。。
少し歪な、10代の少女達の友情。お互い惹かれながらも慣れ合えなかった関係は思い出だからこそ美しい。心の中に温かい水が染み渡って来るような、感動の再生物語だ。

『化石の樹』
植木業者アルバイトの青年の語りから始まる物語。彼の親方に孫が生まれたが、保育園のうろから発見された古い日記が青年と親方に大きな影響を与えることになった。
こちらも回想もの。虐待の疑いがある母親が登場する。幼いまま母となった女性の身に起きた悲劇が、
年月を経て人々の人生に影響を残す。。
1作目から続けて読むから感慨深いお話。どこにも悪い人間なんて居なかったんだね。。悲しい物語だが不思議と爽やかに読み終えられる。加納マジックだね。


やはり加納さんはいい。とてもいい。
優しさと両立し得ない題材を扱いながら、人柄がいいとは言えない苦さをも表現しながら、反感とは無縁の作風を持ち続けている。適度な、読み手と彼女達の距離感も心地いい。

                             (269P/読書所要時間2:00)