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夜叉沼事件  (ねこ3.7匹)

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太田忠司著。創元推理文庫

俊介が中学生になって2ヶ月が経過したある日。彼の担任教師・松永が石神探偵事務所を訪れ、20年前に兄が被害者となった誘拐殺人の真相解明を依頼した。身代金を強請る電話の後、なぜか犯人は受け渡しを前に約束を翻し、その後死体が発見された。なぜ少年は殺害されたのか?依頼を受けた所長の野上と俊介が事件関係者を訪ねて回る中、新たな悲劇が起きる。シリーズ長編第三弾。 (裏表紙引用)


前日に続いて癒しのシリーズ。

俊介の担任・松永先生の兄の死の真相を依頼された野上さん。喫茶店”紅梅”のウエイトレス・アキちゃんを正式に雇った探偵事務所はさらにパワーアップ。推理の冴える俊介と猫のジャンヌが加われば鬼に金棒である^^。

最初は20年前の誘拐事件が物語の発端となるが、藤内不動産が所有する”保養所”で発生した殺人事件がさらなる謎を呼び起こした。なぜ、藤内は誘拐された少年の遺体発見場所に保養所を建てたのか?
保養所で殺された浮浪者は誰?など、いくつもの疑問が野上さんと警察を翻弄する。さらに藤内不動産社長と孫であり会長の利明は食えない男達。飄々と疑惑をすり抜ける容疑者達を出し抜き真相に辿り着く事が出来るのかーー。

まあミステリ部分は相変わらず面白いのでそのあたりは端折るとして、今回は野上さんが俊介に語った
台詞に印象的なものが多かった。
「意見なんて合わないものだよ。お互いがまったく違う人格を持っているんだからね。私達の喧嘩は、意見を統一させるためにしたんじゃないんだ。お互いの気持ちを知るためにやったんだよ。」というくだりは、常識的で至極当然な意見でありながら、改めて野上さんの言葉で諭されると妙に心地が良い。

あと、前作から要注目の池田刑事。怒られそうになった武井刑事をさりげない機転で庇ったシーンも印象的。それに気付ける高森警部も素敵だと思うけど^^

そして、わずか12歳の俊介のキャラクターはやはり突出していると思う。この幼さで、言葉に深みを持たせられるというのは彼の背景に重みがあるからだ。彼が挑むから意味がある事件の数々と知り合った人々は、時に悪意となって牙をむき、時に情愛となって包み込む。殺人事件を扱っていながら陰惨な雰囲気にならない、かと言って軽くもないこのシリーズは全ての年代のミステリファンに向けて温かな何かを発信している。特別贔屓にしたい傑作もないが、安定した面白さはさすが。ぜひこれからも読み続けたい。もう次作の文庫出たのかな。。

                             (321P/読書所要時間2:30)