すべてが猫になる

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せん-さく  (ねこ3.9匹)

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永嶋恵美著。幻冬舎文庫

「俺、帰りたくなくって」29歳の主婦・典子は、ネットのオフ会で知り合った15歳の遼介から別れ際、告げられる。典子は家出を思いとどまらせようと少しだけつきあうことにしたが、彼はなかなか帰らない。道行きの途中、二人は遼介の級友の両親が殺され、友人自身も行方不明だと知る…。現代人の不安とさびしさをすくい取った感動の長編ミステリ。 (裏表紙引用)


これはこれは。『一週間のしごと』とは随分自分の印象が変わったなあ。
29歳と15歳の男女が、ある事情から犯罪を犯しながら逃避行を続けるという、一風奇特なお話。
これが意外と嫌悪感を持って読まなかったんだから不思議だ。性的関係がないというのも理由かもしれない。オフ会で出会った2人が、、というのも流れとしては無理がないし、典子の側に、衝動以外の理由があるのも心理的には自然に映ったのだろう。

遼介の友人が一人称となった章があったのも良かった。本来なら理解しがたいこの世代の気持ちが、
手に取るように伝わって来る。自分の体験とは無関係にそうなるのだからたいしたものだ。
逃避行の時間と共に、自分をさらけ出し始める2人。
仕掛けが明らかになるごとに、彼ら2人の過去が暴かれる。元々典子の側にいたたまれない背景があるだけに、のめり込んで読んでしまう。それでも、「逃げ切れ」とは思わなかったが。

平易な文章で、粘着的な内容でなかったのが幸いし、受け入れる事が出来た。しかし、いくら登場人物に共感出来るものがあったとしても、ラストだけはご都合主義に感じる。こういう未来は、制裁を受けて1つ1つ掴んで行くべきものじゃないか。

                             (453P/読書所要時間3:00)