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化身  (ねこ4匹)

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宮ノ川顕著。角川書店

まさかこんなことになるとは思わなかった―。一週間の休暇を南の島で過ごそうと旅に出た男は、軽い気持ちで密林へと分け入り、池に落ちて出られなくなってしまう。耐え難い空腹と絶望感、死の恐怖と闘いながら、なんとかして生き延びようとする彼は、食料を採ることを覚え、酒を醸造することを覚え、やがて身体が変化し始め、そして…。端正な文体で完璧な世界を生みだした、日本ホラー小説大賞史上最高の奇跡「化身」に、書き下ろし「雷魚」「幸せという名のインコ」を収録。 (あらすじ引用)


第16回日本ホラー小説大賞受賞作。
評判がいいのと、好みっぽい雰囲気だったので楽しみにしていた作品。表紙も不気味でとても好みだ。
本書は三編収録の短編集。短編賞ではなく大賞である。期待も高まろうというものだ。

まずは表題作『化身』。

うおお~~~。
出だしは文章のぎこちなさや「あの有名なギリシア彫刻」という表現に不安になった。面白いと知ってはいても、すぐに惹き付けられるという程のものはない。ロビンソン・クルーソーはだしの青年が、いかにして孤独の中サバイバル生活を乗り越えて行くのか。正直、あんまり目新しさもなく面白くない。。食料が蟹から鳥に変わるにつれ、青年の身体が変化して行く。青年の身体に生えたものというのが想像すると気持ち悪い。。脱出の為に知恵を使い、蛇を利用する手段や死んだふりをして難を逃れるあたりが一番の読みどころで、人間ピンチになるとここまでしぶといのかと感心する。
この作品の何がそんなに評価されているかと言うと、間違いなくオチだろう。誰がこんな結末を予想出来るだろうか。

雷魚
口裂け女が出るという噂が村の子供の間で広がった。釣り好きの少年・康夫は、毎日雷魚を求めて池で釣りをする。彼はある日、白い服のとても綺麗な女の人と知り合いになるが。。
三作中では一番パンチがない。自然を扱うのが得意な作家さんだと言う事はわかる。なんとなく女の人の正体は「アレかアレのどっちか」で予想出来るが、お祭りの喧噪や黒雲の迫力など、雰囲気作りに長けているかもしれない。

『幸せという名のインコ』
およそ100ページの中編。
デザイン会社を経営する夫とその妻、1人娘。娘を美大に通わせたいが、働いても働いてもやりくりが出来ない経済状況に追い詰められた夫の物語。娘の希望で飼ったオカメインコの「ハッピー」は予言を運んでくれるのか?
生活の苦難が痛いほど染みて来るお話。家族共に健康で、娘を大学に通わせようというぐらいなのでそれほど逼迫感を感じなかったが。インコの予言というのはそれほど斬新さは感じないが、夫の心の変化
がなかなかに恐ろしい。読む手が止まらない展開に思わず時間を忘れて読みふけったが、読後感は微妙。例えば読後に「ああ、タイトルこういう意味だったのか」とか、そういう広がりがあればもっと良かった。


以上~。
表題作だけを挙げると、岩井志麻子小林泰三曽根圭介などの受賞短編と張るだけのインパクトはある。2編目を読んだ時はいわゆる一発屋の可能性もあるな、と思ったが、結局のところまとめて満足した。受賞後第一作が楽しみ。長編も読みたいな。

                             (275P/読書所要時間2:30)