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ビッチマグネット  (ねこ4.3匹)

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舞城王太郎著。新潮社。

なんだか妙に仲のいい、香緒里と友徳姉弟。浮気のあげく家出してしまった父・和志とその愛人・花さん。そして、友徳のガールフレンド=ビッチビッチな三輪あかりちゃん登場。成長小説であり、家族をめぐるストーリーであり、物語をめぐる物語であり…。ネオ青春×家族小説。 (裏表紙引用)


すべ猫周辺だけで見ても、舞城ファンは意外と多い。嫌いな人には徹底的に嫌われそうな作風なのに、悪口らしいものも見た事がない。本ってこれだからわからない。かくいう自分もデビュー作を読んで以来の舞城ファン。しかし、前作『ディスコ探偵水曜日』の挫折者続出事件の影響で、さすがの自分もこの新作には”様子見”の姿勢であった。
が、舞城ファン代表・beckさんが足踏みをしているのであれば、ゆきあやが立ち上がらなくてはならない。ヘンな使命感を胸に、果たして自分は舞城さんが好きなのか、beckさんが好きなのかわからなくなって来た。



なんだこの前振り。。。


さて、気になる内容である。
全国一億人の舞城ファンの皆様、ご安心あれ。ディスコ探偵さようなら。見事に待ち望んでいた舞城王太郎が復活である。
成長物語というにはあまりにもいびつな、家族小説というにはあまりにも泥臭い、舞城節全開の青春物語である。持ち味であるハイスピードなリズム感は若干抑えめであるし、特徴である暴力の飛沫もやや
控えめであるが、テーマに”絶対的な家族の絆”を据え、思春期の持てあます衝動と爽快感あるゴールは
間違いなく舞城作品だった。

離婚はしていないが、不倫の果てに家族を捨てた父と、精神が不安定になった母親。高校生でありながら、シングルベッドで一緒に寝る姉と弟。弟は面倒でしたたかな女性を惹き付ける”マグネット”を持つがゆえに、さまざまなトラブルに巻き込まれる。香織里は姉として、情緒が破壊されながらも弟を守り続ける。。。

これが他の作家が描いたものであれば、ここまで心を揺さぶられなかったであろうし、むしろ嫌悪感で一杯だった事は想像に難くない。舞城作品の魅力は、普遍的な”家族の愛”というテーマを掲げながら全てを肯定しない事にある。間違ったものを間違った姿で映し(香織里の父など)、登場人物に理不尽な
困難を押し付け、安易に信頼を勝ち取らない。爆発し、膝を抱え、その上で得た成長だからこそ、舞城作品はいつも傲慢なメッセージにならないのだ。

本書を支持するかはわからないが、往年のファンなら読んで損はないし挫折の心配もしなくていい。
beckさん、買うべし買うべし。

                             (206P/読書所要時間2:00)