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ロープとリングの事件/Case with Ropes and Rings  (ねこ3.9匹)

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レオ・ブルース著。国書刊行会。世界探偵小説全集8。

貴族の子弟を集めた名門パブリック・スクールで、校内ボクシング選手権の翌朝、勝者の青年が首吊り死体となって発見された。警察の捜査では事件は自殺と見られていた。しかし、この判定に疑問を抱いたビーフ巡査部長は、早速車をとばして学校へと乗り込んだ。父親の侯爵の了解を得て捜査に罹ったビーフだが、相棒の作家タウンゼンドの苛立ちをよそにパブ巡りや生徒相手のダーツの手ほどきに余念がない。調査が行き詰まりを見せはじめたそのとき、ロンドンのスラム街でまったく同じ首吊り事件が……。ユーモアあふれる作風で人気を集めたレオ・ブルースが、考え抜かれたプロットとミスディレクションによって、驚くべきはなれわざを演じた本格ミステリの傑作。(あらすじ引用)


レオ・ブルース初挑戦。
またしても面白い作品をはっけん^^。こういう知られていない作品の絶賛紹介文というのは得てして「大袈裟」だったりするものだが、今回は素直に白旗を挙げようと思う。古さを差し引かずとも、これはなかなか読ませる要素の多いミステリではなかろうか。

まず、キャラクター造形が秀逸である。
「わし」という一人称を使い(原文は知らない)、生姜色の口ひげをもつれさせ、洒落たファッションに身を包んだ自信過剰で口の悪い私立探偵・ビーフが最高である。捜査の為に潜入したペンズハースト校では門番の制服に身を包み、学校中にダーツを流行させるという突飛さ。ワトスン役の作家・タウンゼンドもほとほとである。この2人の掛け合いがおかしいったらない。自分の印象では、ポアロヘイスティングスの関係に最も近いと思った。ここでのマイナー作家ならではの面白さ、違いは、タウンゼンドが記述者で女性に弱いという点以外に、「作家と読者」の視点を取り入れているところにある。この事件を小説にした場合通用するかどうか、または怪しい人物が犯人であってはならないだの、どんでん返しのないミステリに読者は金を払わないだの、作中でなく、現実の読者の存在を意識した語りが挿入されるのだ。今では珍しくないかもしれないが、ここでは甚だ新鮮だった。

2つの別の土地で起こった首吊り事件がリンクして行く様、その真相も意外性もなかなか良い。ポアロのように多くの状況証拠から伏線を回収して行き1つの物的証拠を突きつけるスタイルとは違って、ビーフはあくまで事実関係から犯罪を突き止めるところに重きを置いている。
解説では、警察が自殺と断定する事に疑問を呈しているが、小説内の警察とは概ねそういう役割である。明白な動機と常識から離れられない警察の見識を論破していくのが探偵小説であると自分は思う。

いい作家にまた出会った。もちろん読破します。どれからがいいかな~♪^^

                             (285P/読書所要時間3:00)