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蠅/Nouvelles de L'anti-Monde  (ねこ3.9匹)

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ジョルジュ・ランジュラン著。早川書房異色作家短篇集5。

あの泣き声が耳を離れない・・・忘れることを許されぬ悲しみと畏れの叫び。「蝿男の恐怖」、「ザ・フライ」と二度にわたって映画化された表題作のほか悪夢の世界を描く九の短編を収録。 (紹介文引用)


前記事のロアルド・ダールには予想以上のコメントを頂き驚いた(感謝^^)。同シリーズであるこちらのジョルジュ・ランジュランは全くの初耳作家である。さて、評価・知名度の方はいかがだろう。作風はSF(サイエンス・フィクションのほう)で、語彙が足りないかもしれないがそれにミステリと怪奇を味付けした感じ。個人的にはかなり気に入ったのであるが。
ジョルジュ・ランジュランというこの舌を噛みそうなお名前でわかる通り(??)、パリで生まれたフランス語作家である。両親がイギリス人で、パリとロンドンで育ったと書いてある。舞台はフランスであるが、個人の印象ではフランス作家独特の、物語のレールを外れた感じを受けなかったのはそういう理由か。

とにかく一編目の表題作、『蠅』が秀逸である。映画化された超有名作だそうだが、不勉強ながら全く知らなかった。冒頭は、スチーム・ハンマーで夫を殺した妻が登場し、ミステリ風である。最初はいささか失望したが、これがとんでもなく奇妙なSF世界へ連れて行ってくれるのである。ある程度の予測は付けられるものの、その恐怖感といったらどうだろう。こんなおかしな興奮を味わえる小説を自分は読んだ事がない。

続く『奇跡』も素晴らしい作品。
列車事故で両足が麻痺したジャダン氏は、補償金目当てに詐欺まがいの計画を実行した。。。
そもそもこんな不運に見舞われなければ、彼も普通に一生を送れたであろう。しかし、不正は許されない。神は信じないが、悪は必ず自分に跳ね返ってくるのである。爽快ではないが、起こるべくして起こった奇跡であろう。


特にこの最初の2編が強烈に印象的だった。他の作品も悪くはないが、この2作の前ではどうしてもくすんでしまう。届きそうなのはラストの『考えるロボット』あたりか。チェスをするロボットは死んだ夫だと主張する妻。ルイスは、その妻と共にロボットの秘密を暴こうとするが。。SFと怪奇というのか、小説というのは何でも可能なんだな、という夢を与えてくれた作品。気味は悪いが。

全作通すとアベレージ・ヒッターではないが、そんな作家は珍しくもない。むしろ、冷水を浴びせられたような作品が入っていただけで大収穫だろう。他のこういう作品は読めないようで残念だ。1冊、シリーズものが翻訳されているようだが、それだけ読んでどうしろと^^;

                             (269P/読書所要時間3:00)