すべてが猫になる

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キス・キス/Kiss Kiss  (ねこ4.3匹)

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ロアルド・ダール著。早川書房異色作家短篇集1。

予期せぬ出来事が日常の扉を開きあなたをさり気なく訪れる。 残酷皮肉で透明冷徹、シニカルなダールの世界。ヒトラーの出生がテーマの「誕生と破局」ほか、「ウィリアムとメアリイ」など全11編。 (紹介文引用)


異色作家短篇集、読破するぞと意気巻いていたはいいが、、、マシスンとブラウンを随分前に読んだっきり。もうこの新訳版は20作(これで全部?)出ているようなので、慌てて読む。

この作家さん、「チョコレート工場の秘密」を描いた有名な方だったのね。いやあ、知らない事っていっぱいあるもんだ。本書は異色作家短篇集のコンセプトに沿った、奇妙でブラックなお話が集められているもよう。幻想SFみたいな作風かな?と想像していたのだけど、それっぽいのは1、2作だけ。
ほとんどが、”ちょっと狂った人々”が出て来る、オチの優れたブラックユーモアもの。これ1冊でファンになりそう。ロバート・ブロックほど陰惨・怪奇寄りではないのだけど、アメリカ、イギリスの
普通の人々に起きた自業自得な運命、ちょっと人とズレてしまったために狂ってしまった人生を強烈に、皮肉に描いている。

ほとんど気に入ったのだけど(短編集で、これは奇跡)、前半は絶対のハズレなし。特に『女主人』の
オチは、想像がつくのだけど次を読むのが怖い、それでも読んでしまう、、という恐怖を見事に描いている。つづく『ウィリアムとメアリイ』これはすごいよ!病死した男の首を斬って、脳みそを生かそうとする科学者のお話なのだけど、妻メアリイの夫に対する蓄積された恨み?が。。。
『天国への登り道』は、時間に神経質な妻とのんびり屋の夫が登場。2人の相容れない性格が、悲劇を引き起こした。。。(しかし、3作連続で狂ってるのは女性のほうなんだね。。)
『牧師のたのしみ』これは大傑作!!このお話が読めただけでも、ロアルド・ダールに出会えて良かった。古い家具に固執しすぎたために、牧師(?)の運命が一瞬にして天と地で入れ替わる。。。

中盤以降のお気に入りは、『ジョージイ・ポーギイ』。女性に指一本触れられない男。「実は、私は女好きである」って、なんだこれは(笑)。そして、彼が取り憑かれた恐ろしい女達、、まさかこんな奇想天外な展開になるとは。。
『暴君エドワード』は、猫がリスト(音楽家の)の生まれ変わりだと主張する妻のお話。妻をなだめる温厚な夫。この静かな夫(エドワード)が、なぜ「暴君」なのか?それはオチで明らかになるが、いやいやいや、これはダメでしょ(涙)。猫にかまけて夫のご飯を用意しなかった妻が悪いんだけど、、うーん。
スト2作目の『豚』もいいんじゃない。
冒頭で、理不尽に両親を殺されたレキシントン。伯母に引き取られた彼は、10歳で料理の才能を発揮する。しかし、伯母亡き後、彼は初めてレストランで肉を食べるのだ。。
凄い面白い。。。それしか言葉がない。しかし、このオチは。。。レキシントンいいやつなのに~、料理うまいのに~、ひどいやひどいや(T^T)。


とりあえず気に入ったものだけご紹介。
ゆきあやの好みにどんぴしゃりでした。オチが上手い、と思った今まで読んだ作家さんの中ではかなり上位の出来っぽい。他のもので、こういう系統ってあるのかな?なんだか、これが一番の傑作集な気がしてならないのだが。。

                             (317P/読書所要時間3:30)