すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

球体の蛇  (ねこ4.2匹)

イメージ 1

道尾秀介著。角川書店

1992年秋。17歳だった私・友彦は両親の離婚により、隣の橋塚家に居候していた。主人の乙太郎さんと娘のナオ。奥さんと姉娘サヨは7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。どこか冷たくて強いサヨに私は小さい頃から憧れていた。そして、彼女が死んだ本当の理由も、誰にも言えずに胸に仕舞い込んだままでいる。乙太郎さんの手伝いとして白蟻駆除に行った屋敷で、私は死んだサヨによく似た女性に出会う。彼女に強く惹かれた私は、夜ごとその屋敷の床下に潜り込み、老主人と彼女の情事を盗み聞きするようになるのだが…。呑み込んだ嘘は、一生吐き出すことは出来ない?。青春のきらめきと痛み、そして人生の光と陰をも浮き彫りにした、極上の物語。 (あらすじ引用)


ミッチー干支シリーズ新刊。
発売日翌日、在庫を問い合わせ取り置きしてもらい、仕事帰りに自転車きこきこ漕いで入手。目的がソレ1冊だったため、どうしても売り切れや未入荷という事態を避けたかったのだ。

で、途中だった「あるキング」を中断し、早速読んだ。道尾さんの本の積読期間など1秒でもあってはならない。ここ最近のミッチーが大当たり続出だったため若干期待しすぎた感はあるが、やはり面白さは否定出来ない。本書は複雑な家庭に育ち、他人の家に居候している少年・トモが主人公。
トモは居候先の主人・乙太郎の仕事である”白蟻駆除”を手伝っている。ある日、大屋敷での点検を取り付けたトモ達は、その家で美しい女性と出会う。乙太郎家では昔、悲しい死を遂げたサヨという少女が居た。サヨの面影のある女性に一目惚れをしたトモは、夜な夜な屋敷の床下に忍び込み、老主人と女性の情事の気配に耳をすませるのだ。。。

今回は、敢えて読者が共感出来ない人物を主人公に据えたようだ。いくら年頃とは言え、やっている事は立派な犯罪である。特に女性読者の反感を買いそうだ。乙太郎もそれほど魅力ある人物として描いていないようだし、娘のナオも個人的にはあまり好きにはなれない。気の毒な過去がこの家を暗黒の雲で
取り巻いていると言うのか、この若さで未来の選択肢が限られてしまった2人として見て、身体や心に傷を残した3人の”家族”として見て、言い表わせない嫌悪感が湧き上がって来る。

今回は大当たりの鐘は鳴らないな、と思って読んでいたが、第2章の引きで突然「あああっ!」という
奇声を放つ事になる。とんでもないところで、とんでもない繋がりがあったものだ。まさかこんな偶然があるものか、と否定したくもなるが、こうなると俄然今までと食いつきが変わって来る。そうだ、ミッチーはサプライズの作家だった。ミステリというより人生劇場の要素が強い本作にぴったりな、行く末の気になる引きである。


※以下ネタバレします。本書読了後にお読み下さい。










満足はしたが、やはり物語としては不快な部分が多かった。キャラクターを魅せる力量はさすがであるが、描けすぎているのである。トモを想うあまりに智子が自殺したという不謹慎な嘘をついたナオ、これは明らかに自分の為の嘘であろう。姉の死因についての真偽は定かではないが、なんだかこの先、2人にいい事が待っていないような気がする。あんな性癖を持っていたトモの事だから、妻子を捨てて智子を探し始めるんじゃないだろうか。サヨに対する想いと後悔は、それほど根深いように自分は感じる。
そして、智子という女性も全然わからない。いくら判断能力の低い年齢だったとは言え、あんな気持ち悪い男に身体を許すのか?男がいかにも望む不幸な女の理想像という気がしてならない。しかも、トモと乙太郎にまで。トモには身体を許さなかったが、トモに対する気持ちだけは純粋だった、とでもしたいのだろうか?(現に生きてたしー)



















以上。


まあ、とにかく面白かったのは間違いないが。
まだレビューが出回っていないので巷の評判は予想出来ない。読書メーターを見る限りでは、かなり評判がいいようだ。お仲間さんの反応が楽しみである。

                             (278P/読書所要時間3:00)