すべてが猫になる

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あるキング  (ねこ3.7匹)

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伊坂幸太郎著。徳間書店

弱小地方球団・仙醍キングスの熱烈なファンである両親のもとに生まれた山田王求。“王が求め、王に求められる”ようにと名づけられた一人の少年は、仙醍キングスに入団してチームを優勝に導く運命を背負い、野球選手になるべく育てられる。期待以上に王求の才能が飛び抜けていると知った両親は、さらに異常ともいえる情熱を彼にそそぐ。すべては「王」になるために――。人気作家の新たなるファンタジーワールド。 (あらすじ引用)


伊坂さんの新刊は、ファンを戸惑わせる新境地らしい。
野球ものだと言う事と、お仲間さんの評価があまり宜しくない事も手伝って、初めて買わなかった伊坂作品となった。(しかし、こんなに薄い(安い)と知ってたら買ってても良かったが^^;)

さて、感想。
驚きよりも、喜びの方が大きかった。伊坂さんが、奇妙なファンタジーを描いている!!しかも、シェイクスピアを下敷きにしている(よく知らないが、笑)!弱小球団を熱烈に愛する両親に、「王になれ」という願いを託された王求少年。この日本で王と呼ばれる職業と言えばとりあえず野球なのだろう。プロ野球選手の本気球をやすやすと打ち、学校でもクラブでも異常な才能を発揮する王求少年に、世間の目は冷たかった。やがて彼をやっかむ周囲が招いた些細な出来事が、野球狂の両親の手によってとんでもない大事件へと発展する。。

筋は正直どうでもいい。野球用語はホームランしかわからない(←えばるな)。
王求少年の周りに出没する三人の黒衣の女、時折二人称の視点と語りが挿まれ、ファンタジー色が強い。両親の人物像も、ここを真面目に自分の視点と合わせるお話ではない。むしろ、正常の視点があってこそ成立する虚像であろう。(同じ考え方をするおかしな人物が読むという前提に本は描かれない)
読みづらさは否めないが、概ね好みである。野球が苦手という懸念も杞憂だった。


しかし。


読み進むにつれ、違和感というか、据わりの悪さを感じ始める。
ヘンが好きとは言ったが、自分らしさを取り込んだが故に、ファン向けにも文学好き向けにも振り切れない、中途半端さが見え隠れし始めた。これはこれで一応世界としての完結はアリだが、これぐらいなら別に伊坂さんが描く必要はなかったのではないか。元々万人受けはしない作家だと常々言っては来たが、「オーデュボンの祈り」のように、「重力ピエロ」のように、わからない人はわからないでいいもんね、という勝手な自信が生まれる程のレベルじゃないんだよな。。

                             (221P/読書所要時間4:00)