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初恋ソムリエ  (ねこ3.8匹)

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初野晴著。角川書店

初恋に秘められた謎(ミステリ)を追え!吹奏楽の“甲子園”―普門館を目指す弱小吹奏楽部で繰り広げられるチカとハルタの名推理。『退出ゲーム』の続編にして青春ミステリの決定版。(紹介文引用)


『退出ゲーム』に続く、吹奏楽部シリーズ?第2弾です。
どう見ても恋愛小説風のタイトルと表紙ですが、前回と同じく内容は青春ミステリ。今回も、4編収録されています。

『スプリングラフィ』
高校2年生になったチカとハルタ。今年の1年生はクラスが1つ減らされると聞き部員集めに奔走する。部員不足で最低限の楽器しか揃わない現状だが、練習中ふいに聞こえてきたクラリネットの音色に
チカは魅せられて。。
ミステリとしての謎は早朝に何者かが部室に侵入しているという一点のみ。その部分はあまり面白味はないが、突如彗星のごとく現われた新キャラ、芹澤直子との絡みが読みどころ。ちょっとチカにイライラしました^^;頑張りますとか一生懸命練習しますとか、そんなレベルで補える世界じゃないと思う。最初と最後でチカの言っている事が変わっていないのはどうかな。だからどうしろってワケでもない問題なのだけど、チカからは「どうしても吹奏楽じゃなきゃ自分はダメなんだ」っていうオーラが感じられない。その相手として出すには、芹澤さんは現実的に不釣り合いだと思う。

『周波数は77.4MHz』
チカの住む街で、ひっそりと流されるFMはごろも。おかしなDJカイユと、七賢者と呼ばれる老人達が持つ悩み相談番組だ。文化部の予算枠から自主的に外れた地学研究会との関わりは!?
単なる高校生の青春ものの枠から飛び出した感じ。随分と夢の世界だなあ。。カイユの正体の面白さというより、水面下で活動する老人達のアジトを突き止める面白さ、って感じ。

『アスモデウスの視線』
藤が咲高校のあるクラスでは、一ヶ月の間に席替えが3回も実施された。担任の堺先生が自宅謹慎という大事件も加わり、顧問をつぶされたチカ達の高校でも他人事ではなくなったのだが。。
やっと、初野さんらしい面白さに出会えた。最初の2編はちょっとやばかったので^^;
教育実習生の大河原先生が加わり、この不可解な席替え事件にグッと厚みが増しました。最初の謎だけでも充分インパクトがあったのだけど、全ての関わり合う人々の人生とポリシーが浮き彫りになった大人達のドラマでもあります。

『初恋ソムリエ』
初恋ソムリエだと自称する朝霧亨が、芹澤さんの伯母の依頼を受けて彼女の初恋相手を探し始めた。。
いつも表題作が一番力入ってますね。初恋ソムリエそのものの発想もさることながら、伯母の思い出話が幻想的というか。現代青春ものとファンタジーの融合はやはり初野さんにしか描けないのでは。
大傑作になる予感があったのに、肝心の事件の謎が曖昧なままだったのは残念。だいたいの予想はつくけれど、描くべきだったんじゃないかな。ミステリ読者じゃなくてもさすがにモヤモヤが残ると思う。


『退出ゲーム』の方がクオリティは高かった気がしますね。
だけど、チカとハルタを中心に全国大会を目指し、徐々に「今やるべきこと」が見えて来てますね。もちろん顧問である草壁先生の力が大きいのだけど。それにしても、恋愛要素って必要かなあ。。。チカもハルタも、この想いが成就するには無理があるし、かと言ってこの2人がやがて・・・っていうのも
ピンと来ないんだなあ。特に、ハルタのこの設定は軽く失敗している気も。
やっぱファンタジーの方が好きかも。初野さんはそれがないとミステリとしてコケた場合に残るものが少ない。

                             (258P/読書所要時間2:30)