すべてが猫になる

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陰日向に咲く  (ねこ3.8匹)

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劇団ひとり著。幻冬舎

バラエティ番組等で大人気、若手実力派芸人による処女小説。ギャンブルで作った借金の末にオレオレ詐欺を働く駅員。男を想うあまり、男を追い詰めるコンビ芸人の女。女の愛に気づかず、他の女を追うコンビ芸人の男??。爆笑と感動の5篇の連作短編小説集。 (あらすじ引用)


今日やっと開架で見つけたので、帰ってすぐ読んでみた。
別に日本中の誰も自分に注目していないのは自分が一番良く知っているが、自分はベストセラー本を買うのはとても恥ずかしいという性格である。いわんや、タレント本をや。しかし、『ホームレス中学生』は知人が持っていたので借りたその場で読んだし、リリー・フランキーだっていつか開架に並びさえすれば借りるつもりでいる。今日だって、国書刊行会のカッコイイ本たちの間に挟んでこそこそ借りた。自意識過剰である。何が言いたいかって、いや、バカにしてるわけでも興味がないわけでもないんだよ。。。
ただ、個人的に劇団ひとりさんが好きではなかったので(芸は好きだったのに、平成教○委員会を観て以来嫌いになったんだよ。。なんで仮にも作家の国語力が自分より低いんだ)さすがに本書はお仲間さんの推薦がなかったらスルーしてただろうなー。この場を借りてお礼を言います、ありがとうございます^^

前置き長い。

本書は連作短編集。
全ての作品がちょっとずつ繋がり合っているという噂を聞いて、楽しみにしながら読む。
『道草』
妻子のいるサラリーマンが、「自由」を求めて即席ホームレスになるお話。
文章は想像より良くなかったが、それを上回るセンスを言い回しのあちこちに感じる。この作品を読み終わるまでに、劇団ひとりさんへの好感度が倍以上アップした。日常の目線一つ取っても、これは普段から色々な事を考えている人でなければ描けない作品だ。きっと本もたくさん読まれているに違いない。

『拝啓、僕のアイドル様』
B級アイドルのミャーコの大ファンである男。彼は売れないミャーコを陰で励まし、応援し続ける。わずか4人しか集まらなかった握手会で、彼が決意した事とは。。
これは面白い!特に掲示板の「これだけは本当の書き込みです」に心を鷲掴みにされてしまった。笑いのセンスが小説に生きるんだなあ。一瞬、モリミーぐらいのオーラを感じた(笑)。

『ピンボケな私』
カメラマンになる事が夢だという「嘘」をついてしまった少女は、嘘を現実に近づけようとデジカメを購入したが。。
恋愛もの。(これ、読む前に読書メーター見ちゃったせいで仕掛けを知ってしまってたんだよね。。)
かなり主人公が痛い性格で面白味がある。ラストはこの作品が一番好き。これから変わる予感が描かれていて素敵だと思う。

『Overrun』
ギャンブル狂の多重債務者の青年。切羽詰まった彼が思いついた犯罪は、オレオレ詐欺だった。。。
計画性のまったくない、言ってみれば主人公の「人の良さ」が笑いを誘う。「これじゃオレオレ詐欺じゃなくてただのオレオレだ」に爆笑。なかなか泣かせる人情話で、じーんと来ました。

『鳴き砂を歩く犬』
不幸な生い立ちの少女と、才能のない芸人志望の男。2人の人生は、浅草のストリップ劇場で重なり合う。。
全てを纏めた作品。ただ前回の登場人物を出すだけの”リンク”に「うまい」という感想は持たない自分だが、場所と年代を越えて、一冊の作品で仕掛けを収束させドラマを作り出したこの作品はとても良いなあ。


文学的な素地があまりなかったのは残念だが、完成度の高いエンターテインメントの小説だと思う。読み終わった今、劇団ひとりさんがカッコ良く見えてしょうがない(笑)。こんな本が1冊描けるというのは、それだけでとても魅力的な方ではないだろうか。普段作家自身にあまり興味を持たないが、(作品と作家は切り離さなければと思うので)露出があり人物イメージのついているタレントさんなので彼自身の評価が上がってしまう。そういえば、鳥居みゆきさんの小説もとても良かったと道尾さんが仰っていた。。読もう。読みましょう。

                             (220P/読書所要時間2:00)