すべてが猫になる

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花と流れ星  (ねこ4.8匹)

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道尾秀介著。幻冬舎

いつになれば、笑えるのだろう。
死んだ妻に会いたくて、霊現象探求所を構えている真備。その助手の凛。凛にほのかな思いをよせる、売れないホラー作家の道尾。三人のもとに、今日も、傷ついた心を持った人たちがふらりと訪れる。友人の両親を殺した犯人を見つけたい少年。拾った仔猫を殺してしまった少女。自分のせいで孫を亡くした老人……。彼らには、誰にも打ち明けられない秘密があった。心が騒ぐ五篇。(あらすじ引用)


ミッチーを贔屓するのもええかげんにせえよ、という皆様の声が聞こえて来るようです。。
ねこ点はあくまでゆきあや個人の好みと満足度ですので、どうぞウチの評価だけを真に受けず、ご自身でご判断下さいまし。ゆきあやは極端に好きな作家の粗は探しません。ひたすら感動と興奮と愛を語り尽くすのみ!或いはべるさんとよもさんに捧ぐミッチーへのラブレター!(笑)


さて、道尾さん待望の新刊は真備シリーズ初の短編集。
しかし、「背の眼」や「骸の爪」、或いはシリーズ外短編集「鬼の跫音」のようなホラー作品とはまた違った趣きを出しています。単にミステリという形だけではなくて、人間というものの深みや、事件後のフォローにドラマ性を強く打ち出す事によって、温かさ、哀しさ、さまざまな読後感を生み出す素晴らしい作品ばかりです。

『流れ星のつくり方』
これは以前ホラーアンソロジーで読んだもので、ゆきあやが道尾さんを見直すきっかけとなった思い出の作品。再読でさらに理解度が深まりました。ミステリ的な仕掛けが二重となって、やはり凄い。夜空の下で語り合う凛と少年の姿が瞼の裏に浮かんで来ます。

『モルグ街の奇術』
これはポーの「モルグ街の怪事件」のネタバレがあります。(作者注がきちんとあります)
以前なら、読んでないミステリファンはいないだろうぐらいは言っていたであろうゆきあやですが、道尾ファンには若い人もミステリ読みではない人も沢山いるでしょうから、作者注は賢明なご判断ですね。それでもこれを描き上げたのですから、ポーを読んでいる読者の確率の高さを確信されたのでしょう。
バーで知り合った外国人マジシャンと賭けをする真備と道尾君、なんとマジシャンには右腕がなかった。彼の右腕はどこへ消えたのか?というお話。一番ミステリらしい作品です。サプライズはないに等しいですが、謎解きのドキドキ度や読後の憎らしさなど、読みどころは色々。

『オディ&デコ』
拾った仔猫を自分のせいで殺してしまった、と悩む少女。少女が撮った動画に、仔猫の霊が写っているというのだが。。。
子供が持つ穢れのない優しさと、小さな心の刺。その二つを見事に描き切りましたね。これもミステリ的には凄いわけではないのですが、道尾君の思いがけない優しさやお茶目さ、男らしさが強く出ていて良かったです。

『箱の中の隼』
ある宗教団体の見学に行く事になったのは、真備のフリをさせられた道尾君!現場は想像以上の異世界で、さらにおかしな現象が。。
ははは、道尾君哀れ^^;;コミカルな要素があって、冒頭は楽しめますね。巻き込まれ体質もここまで行くと笑えます。
お話としてはかなり気に入った作品です。内容はとても笑えるものではない許し難いものですが、ギリギリの逼迫感や目に見えていたものが姿を変えて行く謎解きの気持ち良さは保証します。

『花と氷』
自分の過失で孫娘を死なせてしまったと嘆く老人が、自分のねじ製作所で子供相手のおたのしみ会を開くという。。
なんというやりきれない、理不尽なお話でしょうか。老人を責める家族もわかるし、彼が取った行動を責める気持ちと、立ち直って欲しい願いが自分の中で交互にわき上がって来ます。真備の慧眼には頭が下がりますね。自分がこの立場でも似たような事を老人に言うかもしれないけど、真備自身の悲しい境遇を鑑みると、老人の行動には泣きたいぐらいの悔しさと悲しさがあったのではないでしょうか。


以上。
10分の休憩時間に50m5秒の俊速で買いに行った甲斐がありました(ホノブもね^^しかし、現物を見たので他の3冊も欲しくてたまらなくなってます。。。やばいかも。。やっちゃうかも。。)。
しかし、乙さんでも麻耶さんでも綾辻さんでもここまではハマらなかったぞ。。ほんとにもう、手に取っただけで心臓が痛い。。
特に、真備シリーズとは思えないぐらい(失礼)キャラも立って来て読みやすい。一作ごとに成長しますね^^天才とも違うし、文学的に優れているわけでもないのはわかっているのにどうしてこんなに相性が合うんでしょうね。

                             (225P/読書所要時間1:30)