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虫とりのうた  (ねこ3.6匹)

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赤星香一郎著。講談社ノベルス。第41回メフィスト賞受賞作。

小説家を目指す赤井は、ある日河川敷で必死に助けを求める少女と出会う。知らない男に追いかけられていると訴える少女。だが、男は少女の父親だと言いはる。助けようとする赤井だったが、居合わせた大人たちに少女を男に返せと言い含められ、その場をやり過ごしてしまう。そして後日、少女が男に殺害されたことを知って罪の意識に苛まれ、彼女の葬儀に参列。そこで「虫とりのうた」という奇妙な唄にまつわる都市伝説を耳にした…。 (裏表紙引用)


メフィスト賞最新作、今回はホラーが来ました。メフィスト賞でホラーというと、「孤虫症」しか思い浮かばないぐらいなので珍しいですね。ホラー・クイーンゆきあやとしては嬉しいかぎり。メフィスト賞だからって容赦はしません、メフィスト賞監視役・ゆきあやの腕が鳴るぜ^^

で、感想。

ぎゃあ。面白いではないかー。

不気味なオヤジと少女のシーン、この導入部でいきなり怖い。絶対この二人親子じゃないぞ、と読者に予感させ、そのまま作品の世界に引き込ませてしまった。そして主人公赤川の妻の家系が占い師である事、その設定も恐怖心を煽って来る。不気味な妻の一族の描写に始まり、夫婦関係の軋轢が絡んだと思ったら謎のチェーンメール怪死事件へとテンポ良く進展する。
「虫とりのうた」と名打たれた呪いの歌詞は多少稚拙だがリズムの悪さよりもやはり怖さの方が際立っていて悪くはない。

しかし、ユングの定説やらなんやらが突然挿入されるあたりがどうにもこうにも。この「元型」はストーリー上柱となるもので必要だったが、筆力がそんなにない作家が蘊蓄を入れるとどうしてこうも「付け焼き刃」的な、文献をそのまま写したような印象しか受けないのか。。急にそこだけ語彙が増えるんですよね。
さらに、展開が相当陳腐です。怪死事件が連続するその流れが安易すぎるし、誰が諸悪の根源なのか、先が読みやすすぎる。作中で解明されない故意的な謎があるそうですが、このあたりは逆にした方が良かったのでは。読者を混乱させた挙句、どんでん返しという方法で解明させた方がテクニックとしては”勝ち”でしょう。この作品はその代わりにホラー的なびっくりエンディングが用意されているので、肝心の○○○の謎の方は先に明かしておき、この結末を謎として機能させる。・・・余計なお世話か^^;

いやあ、でも、問題は自分が案外気に入ったという事です^^
中期以降のメフィスト賞では珍しい事に、この作家さん、次が出たらまた買うと思います。これと言って斬新な点など何もありませんが、読みやすいし好みかな。応援したいです。
しかし、作家を目指す方ってアイデアをひねりだして構成を考えてこのために文献を漁って、そして読者にごちゃごちゃ言われるんじゃ大変ですね^^;

                             (248P/読書所要時間2:30)