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ソルトマーシュの殺人/The Saltmarsh Murders  (ねこ3.7匹)

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グラディス・ミッチェル著。国書刊行会。世界探偵小説全集28。

ぼく、ノエル・ウェルズはソルトマーシュ村の副牧師をつとめている。牧師のクーツさんは付き合いにくい人で、奥さんはやかまし屋だけど、姪のダフニは美人だし、村は平和そのもので、とやかく言うことはない。ところが、牧師館のメイドが父親のわからぬ子供を妊娠し、お払い箱になった頃から、村では妙な事件が次々に起き始めた。そして村祭りの夜、クーツさんが何者かに襲われ、大騒ぎをしているうちに殺人事件の知らせが飛び込んできた。そこで探偵仕事に乗り出してきたのが、お陣屋に泊まっていた魔女みたいなお婆さん、ちょっと気味の悪いところのある人だけど、なんでも有名な心理学者で、おそろしく頭が切れる人。いつの間にか助手にされてしまったぼくだったが…。魔女の血を引くという変り種の女探偵ミセス・ブラッドリー登場の、英国ファルス派グラディス・ミッチェルの代表作。 (あらすじ引用)


お目当ての「英国風の殺人 byシリル・ヘアー」が置いてなかったので、野生のカンで適当にこれを。
根っから好きみたいで、無意識に英国ミステリばかり選んでます。今回挑戦したこのグラディス・ミッチェルさんは全くの未読で、名前を聞いたのも初。(この全集の9割はそうなんだけどね)なんとクリスティと張るぐらいの数の長編が存在するようです。翻訳されたのは7作くらい。わーい。

さて、内容はいかがなものか。
なんといってもクリスティ「牧師館の殺人」を彷彿とさせる舞台設定と、老女が名探偵というミス・マープルのライバルのようなキャラ設定にファンとしては小躍りが止まりません。ここに出て来るミセス・ブラッドリーはマープルとは対照的に、ぶっ飛んだ凄い婆さんです。笑い声がかん高く、ブリッジはプロ級、ナイフ投げは達人並み、見た目に関しては「小柄で痩せていてしわくちゃで顔は黄ばみ魔女を思わせる黒い目は眼光が鋭く猛禽の鉤爪のような黄色い手をしていた」「とにかく悪そうなのである」「尾を引き抜かれた金剛インコのように」など、さんざんです^^;探偵活動に関しても積極的で、ワトスン役に任命されたノエルが引っ張り回され哀れなもの。
他のキャラクターも、誰にでも動物のニックネームをつけるおばさんや○○を密輸するおじさんや犬が苦手なせいで飼い主に首を絞められる男や、めちゃくちゃ^^;

ストーリー、文章としてはなんだか”じれったい”ミステリーでしたね。
自分が思ってた事全部解説でうまいこと書かれちゃってるもんだからそのまま引用するけど、「盛り上がるべきところで盛り下がり、盛り下がるべきところが盛り上がる」小説だったのです。試合とかお祭りとか具体的に記述してないで早く事件起きろー、と思ってしまうし、やっと事件らしきものが起きたと思ったらサラッと終わってしまう。あの騒動はなんだったんだ、興奮しちゃったじゃないか!と悶々させられます。謎解きを講演形式にする、というのは面白いのだけど、一体真相はどれ?って混乱して来る作りというか。

まあ、そんなこんなで動機やトリックはまあまあ、という感じで終わるのですが、この小説の肝はなんといっても、ラストの『ミセス・ブラッドリーの手帳』でしょうね。やっぱりこの婆さんは凄かった^^;「最初から犯人はわかっていました」が名言の探偵は数名いるけれど、このブラッドリーの事件記録を見ると本当に最初から正しい推理をしていたんだな!という事がわかります。そして、衝撃の最後の一行。この付録があるかないかで、この小説の評価はかなり変わっていたのではないでしょうか。

この作品は四作目だそうです。是非他のこのシリーズも手を出してみようと思います。
ただ、かなり特徴が出ている作家だと思うので、好き嫌いは分かれそう。そういう意味では”玉石混淆”の玉か石かは読者次第。自分も、いかにクリスティやバークリーが読みやすいかが身に染みてわかったもんね。
 
                             (316P/読書所要時間4:00)