すべてが猫になる

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人間以上/More Than Human  (ねこ4.6匹)

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シオドア・スタージョン著。ハヤカワ文庫。

悪戯好きの黒人の双生児、生意気な少女、発育不全の赤ん坊、そして言葉さえ知らぬ白痴の青年。かれらは人々から無能力者、厄介者として扱われていた。しかし、世間からつまはじき者にされるかれらこそ、来たるべき人類の鍵を握る存在ーーコンピューター顔負けの頭脳、テレパシー、テレキネシス、テレポーテーションなどの能力をもつ超人だったのだ! 一人一人では半端者として無駄に使用されていた超能力も、五人が結集して手となり足となる時、人類を破滅に導き得るほどの恐ろしき力と化すのであった……。幻想派SFの旗手が描きあげたミュータント・テーマの金字塔!国際幻想文学賞受賞作品。
(裏表紙引用)


「白痴は、黒と灰色の世界に住んでいた。」という衝撃の一行で幕を明けた。
スタージョンの作品は短編集と長編と一冊ずつ読んでいるが、その頃の印象から既に掴みどころのない作家だと思っていた。この作品ではさらにその印象が顕著で、SFというよりダークファンタジーのような第一章の作品世界に心が躍る。乱用される差別用語、終わることのない虐待の雨、人間らしい感情を持たない彼らの救えない倫理観。正常者の視点がほとんどないため、どこへ向かって行く物語なのか、それともやはり答えのないまま破壊して行く哀れみとおかしみの物語なのかがいつまでも判然としない。

第二章「赤ん坊は三つ」からは一転、三歳なのに赤ん坊のままだが神の能力を持つ?者を中心に、進化した白痴のローン、孤独なジャニイ、黒人の双生児ボニイとビーニイの潜在能力が明らかになって行く。第一章で印象的に登場したミス・キューが関わる事により、事態は急激に進展して行く。
そこへ”現在”と思われる位置から、精神病医スターンが登場する。このあたりになると、だんだんテーマが明確になって行く。五人で完璧な人間以上の何かになれる彼らの心の葛藤や、道徳とはなにか、集団の品性とかなにか、そして彼らの知らない”ある感情”を獲得する事により、彼らは何者になるのか。

筋はここまでとして。
意外とおさまるところにおさまってくれて感激した。未完成という判断もアリだと思うが、描いて欲しかったのは彼らの人間らしい感情の覚醒。人間のようなもの、である超能力者達に何が足りないのかは読者にわからないはずはない。奇抜な設定でいてこれは人間そのものに対するスタージョンの警鐘だと思う。でなければ「人間以上」なんてタイトルは付けないだろう。これが愛の礼賛でなくて何だというのだ。


・・・と、小難しい事ばかり考えていたわけではありません。夢中になっただけで^^
一口にSFと言っても色々あるなあ~、と。こういう幻想的で哲学的なものも好みなので(簡単に言うと、ヘンなやつ)、こっちの方向も色々と読みたいですね^^

                             (374P/読書所要時間4:30)