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ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎/Roger Sheringham and the Vane Mystery  (ねこ3.7匹)

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アントニイ・バークリー著。晶文社

ウィッチフォード事件を見事解決に導き、名探偵の盛名あがるロジャー・シェリンガムは、「クーリア」紙の編集長から、ラドマス湾で起きた転落死事件の取材を依頼され、特派員として現地へ向かった。断崖の下で発見された女性の死体は、当初、散歩中に誤って転落したものと見られていたが、その手が握りしめていたボタンから、俄然殺人事件の疑いが浮上していた。警視庁きっての名刑事モーズビー警部を向うにまわして、ロジャーは自ら発見した手がかりから精緻な推理を展開、事件解決を宣言するが、つづいて第二の事件が…。快調シェリンガム・シリーズ第3作。(あらすじ引用)


シリーズ第3弾^^ここで初めて名物モーズビー警部が初登場します。
今回はシェリンガムの従弟であるアントニイがワトスン役として活躍。冒頭から二人の漫才のような会話が非常に楽しく展開されますね。天然ボケのアントニイに自意識過剰のキレやすいおじさんシェリンガムの応酬。このわずか数ページで心掴まれないようならもうダメでしょう。

嫌われ者のヴェイン夫人にこき使われていたマーガレットがパッと花が咲いたように二人の前に登場し、いつになく物語は華やかなロマンスの様相を呈してゆきます。シェリンガムとアントニイの足を使った捜査と、モーズビー警部のプロの組織力で事件はすみやかに解決・・するように見えましたが。
そこはやはりバークリー、ただでは終わりません。
またシェリンガム間違うし^^;「僕が間違うなんてー!」とショックを見せておりますが、これから先も君は何度も間違うんだよシェリンガム君^^;;

そして本書の一風変わった纏め方も、やはり解説に触れてみないわけには行きません。自然派という言葉が出て来ますね。警察は優秀であるべきで、素人探偵は間違う事もあるべきで、腹を読めば探偵小説そのものが、犯罪者は必ずこうなるべきという常道から逸れる事も現実的に受け止めるべきで。
しかし、「これ以外の真相は有り得ない、という事は有り得ない」というポリシーについて反旗を翻す
読者も少なくはないのでしょう。パズルの解答に何通りかの筋道があったとしても、辿り着くところは一つ、そのために本格推理小説では”検証”という手段が用いられるはずです。消去法しかり、物的証拠についてはその先にあるものは必ず正答なわけです。否定するならば、その代替で論理を破壊するべきなのです。物的証拠を後ろにまわし心理的証拠にあくまでもこだわるならばシェリンガムはやはり自然派なのでしょう。
やはり自分は、「楽しい楽しい読み物」としてバークリーを肯定するしかありません。特に本書はベスト3に入るくらい気に入りました。ロジャー・シェリンガムという探偵を理解するのにも最適な、はじめの一冊。

                             (305P/読書所要時間3:30)