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優しい密室  (ねこ3.8匹)

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栗本薫著。講談社文庫。

名門女子高の校内でチンピラの他殺死体が発見された。しかも現場は密室だった!?お上品な平和にはあきあきしていた森カオルは勇躍、事件の渦中へ……名探偵伊集院大介とワトソン役カオルが邂逅し事件の謎をとく好評シリーズ第2弾。著者自らの高校生活が色濃く投影され女高生の心理が躍如と描かれた秀作。(裏表紙引用)


追悼・栗本薫さん。
あねきが教えてくれた伊集院大介シリーズ、こちらは第2弾だそうです。(絶版だから順番がどうとかやってられないの;;)後の重要なキャラクターとなる作家の森カオルさんが、今回主人公となっております。現在、伊集院さんと共に活躍しているところから、過去の自分を回想するというスタイルのようですね。読み終わってからプロローグを読み直すと感慨深いですよー。

この作品は、伊集院大介の魅力で魅力で魅力的な人柄と、多感な17歳の少女の心情にスポットをあてたもの。本格ミステリとして語るとちょっと危険(悪くはないんだよ)。憧れの女子生徒を持ち、小説を愛し、小説を描く。大人の言う事を素直に聞けず、教師から疎まれる存在のカオル。進んだクラスメート達に馴染めず、白けてそれを眺めながらも、どこかコンプレックスを持っている自分が歯がゆい。そんな年頃の一人の少女が、伊集院大介に出会ってどれほどの影響を受けたか。どれほど傷付き、そして得る物があったか。伊集院さんがカオルに言った台詞がとても印象的です。

『あなたは、何だか、かわいそうですね。あなたは、あなたのいまいる年齢とぜんぜんあっていないんだね。(中略)いまに、あなた自身と、あなたのまわりが、ピントがあうからね。きっとそうなるよ』

・・こんな事を言ってくれる大人が、私の周りに一人でもいたかなあ。
自分が思うに、17歳の頃って大人が無様に見える時がある。信頼出来ない大人と、価値観の違う友人の間で、ひっそりと自分の中で大事なものを守っていたような。
大人が100%正しいかと言ったら、自分は今でも違うと思っている。
だけど、大人になったからこそ、知っている事というのは必ずあるんだよね。伊集院さんはそこをわかっていて、大人と子供の目線で物事を見てくれたんじゃないかな。
事件と一見釣り合っていないように見える「優しい密室」というタイトルは、伊集院さんをイメージしてカオルさんが考えたものなのかな。だとしたら素敵だな。

                             (272P/読書所要時間2:50)