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生き屏風  (ねこ3.8匹)

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田辺青蛙著。角川ホラー文庫

村はずれで暮らす妖鬼の皐月に、奇妙な依頼が持ち込まれた。病で死んだ酒屋の奥方の霊が屏風に宿り、夏になると屏風が喋るのだという。屏風の奥方はわがままで、家中が手を焼いている。そこで皐月に屏風の話相手をしてほしいというのだ。嫌々ながら出かけた皐月だが、次第に屏風の奥方と打ち解けるようになっていき―。しみじみと心に染みる、不思議な魅力の幻妖小説。第15回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。 (裏表紙引用)


『生き屏風』
読み終わって一言。これは良い。絶対に良い。
決して上手い文章ではないが、1ページ目から読者を惹き付けるインパクトと、行間に挟まれる切なく美しいサラリとした描写。ホラーと銘打つのがもったいないくらい、幻想的で哀しげな雰囲気に包まれたお話。最初は不気味なだけだった”屏風にへばりついた奥方”の命令口調も、最後には同情という名の共感に変化するのです。ザラリとした感触の語り口を保ったまま、反則に近い感動を与えてくれました。ほんとに、自分の心臓から”ぎゅっ”という音が聴こえます。

『猫雪』
意外にも連作でした。妖鬼の皐月が全ての作品に登場します。
本作の実質的な主人公は、里のはずれに一人で暮らす次郎という青年。お手伝いのお妙が毎日食事を作りに来てくれるほかは、のんびりと過ごしている。。
雪になりたいという願望がまたいいですね。気の弱い男ですが、彼なりに世の女性を愛おしく思っているのでしょう。

『狐妖の宴』
惚れ薬を作ってくれ、と皐月のところへおかしな依頼をする少女が。。器量も悪く、恋には奥手の皐月は百戦錬磨?の狐妖を頼るが。。
あっはっは。この少女の恋へのパワーが凄い(笑)皐月が引いております^^;
昔語りが多い作品ばかりですね。そのエピソードに毎回惹き付けられます。語り方が上手いのでしょう。


以上~。
解説で、「癒しのホラー」と書かれているのがぴったりだと思いました。ホラーが苦手な方でも、これなら読めるはず^^雰囲気自体は怪奇小説そのものですが、グロいシーンもないですし、皐月をはじめとする妖怪達がちょっと人間臭いというか、人間の後ろに廻っている気配があるので怖くないです。
怖さがないならホラーじゃない、と思うかもしれませんが、これがなかなか単純ではないのですよ。

(読むまで長編だと思ってました^^;「トンコ」との同時受賞だったのねー。長編賞は「粘膜人間」だった^^;)
                
                             (165P/読書所要時間1:30)