すべてが猫になる

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デンデラ  (ねこ3.8匹)

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佐藤友哉著。新潮社。

この世の果てにある、この世のすべて。それが、デンデラ??。村から捨てられた五十人の老婆が、奇妙なコミュニティを形成する「デンデラ」。ある者は村を恨み、ある者は諦め、ある者は穏やかな死を願う。様々な感情が渦巻く隠れ里は、一匹の巨大羆の襲来により一変した。寓話として、エンタメとして、社会風刺として、あらゆるジャンルがカオスとなって描き出す、現代の「普通小説」。 (あらすじ引用)


ユヤタン待望の新刊。
遂に勝負に出ました。新境地です。鏡家サーガ等の本来のユヤタンワールドでは外せなかった近親相姦、キャラ萌え、ロック要素を完全にシャットアウト。ですます言葉の童話調で語られるこの新作は、ゴールディング『蠅の王』を下敷きにした少しだけ新しい文学小説。もうユヤタンなんて呼び名は似合いません。文学賞の候補になりそうな手応えあり。

姥捨て山でひっそりと生き延びた50人の老婆たち。主人公である斎藤カユは、彼女達を死にぞこないと呼び軽蔑し、あくまで極楽浄土への野望は捨てきれない。それでも、家事や恐ろしい熊との闘いに忙しい毎日を送る。。。
まず、男性だったら助けない主義というのが面白い。そのこだわりが、全然説得力がないところも女性らしくてリアル。特徴としては、老婆達の話し言葉が全員若者の男言葉のようだという事。おとなしい者も、勇ましい者も、全員がファンタジー小説のヒーローみたいな言葉使いをしている(笑)。老婆達の中でも襲撃派と穏健派に分かれており、その立場が展開が進むにつれて変化して行くのも興味深い。
作中やたらと連呼される”主張””大目標”という言葉が物語のキーだと思うが、徹底的な弱者である老婆が行き着く先はやはり従来のバトルもの、デスゲームものとは違う。茶化しているのではなく、この作風が逆に世間への糾弾としては効果的なのだろう。これが40代50代のユヤタンが描いたものなら全く別物になっていたかもしれない。
ミステリ的なサプライズが用意されているのも嬉しい。

全編通して、まったく楽しさのない小説。メッセージ性が強いがそこを「俺が俺が」と”主張”しない手法を用いる事によって、ユヤタンはまた一皮剥けた。

                             (331P/読書所要時間4:30)