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仄暗い水の底から  (ねこ2.8匹)

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鈴木光司著。角川ホラー文庫

巨大都市の欲望を呑みつくす圧倒的な「水たまり」東京湾。ゴミ、汚物、夢、憎悪…あらゆる残骸が堆積する湾岸の「埋立地」。この不安定な領域に浮かんでは消えていく不可思議な出来事。実は皆が知っているのだ…海が邪悪を胎んでしまったことを。「リング」「らせん」の著者が筆力を尽くし、恐怖と感動を呼ぶカルトホラーの傑作。 (裏表紙引用)


映画化もされた有名作品ですが、短編集だったとは知りませなんだ^^;映画を観ていないのですが、恐らく一編目の『浮遊する水』がそれに当たるのでしょうね。鈴木さんの作品を読むのは『リング』『らせん』以来の3冊目ですから、かなり久しぶりです。長編が読みたかったんだけどなー、うーん。全体的にはカルトホラーというよりモダンホラーという感じです。舞台がマンションの一室であったりねずみ講の勧誘を扱っていたり。東京湾という大舞台から様々な人間模様を受信して、かくも不気味でぞくぞくする”根暗”なホラー集という感じがいたしますね。

全作品を読んで感じた事は、やはり真面目で正統派な作品ばかりだな、と。自分はよくホラー大賞などの新人作家さんを読むのですが、比べて鈴木さんのように一度大ヒット作を出されたような実力と貫禄を持った方の作品は、以後あまり冒険をしなくなる気がする。計算された構成、安定した文章、確かな怖さと引き換えに、溌剌さが失われているというか。テーマを一貫させ、お話とお話を絡ませた作品なので飽きがくるのもこれはしょうがないです。

敢えて気に入ったのはやはり『浮遊する水』。深夜のエレベーターの描写の迫り来る恐怖感は圧巻ですね。ラスト、事実をはっきりと明確にせずに終わらせるのもいい。
恋人を殺したのかどうか、というサスペンス風の題材から心理的に追い詰めて行く『穴ぐら』や『孤島』も良かったのですが、ちょっとオチが見えすぎるのが難。
目立って印象に残ったのは、演劇の舞台にかなり変わった場所を使った『ウォーター・カラー』かな。
作品の纏まりとして良いかどうかは微妙ですが、水漏れから着想に至った新しい展開だと思う。

                             (266P/読書所要時間3:00)